“音を操る”NTTソノリティの挑戦 独自の音声パーソナライズ技術で“外さないイヤホン”へ

NTTソノリティのイヤホン「nwm(ヌーム)」シリーズが好調だ。NTTグループが自らコンシューマー市場に打って出る背景には何があったのか。その構想と展望を聞いた。

NTTがコンシューマー向けにイヤホンを発売する──。この発表は驚きを持って迎えられた。

NTT持株の全額出資でNTTソノリティ(以下、同社)が設立されたのは2021年9月、2022年7月には有線モデルイヤホンのクラウドファンディングが先行して始まり、同年11月には、コンシューマー向け音響ブランド「nwm(ヌーム)」が誕生。有線モデルの「nwm MWE001」、無線モデルの「nwm MBE001」(写真)が正式に発表された。2023年5月現在、両モデルとも市販され、家電量販店等で購入することができる。

無線タイプのイヤホン「ワイヤレスパーソナルイヤースピーカー nwm MBE001」

無線タイプのイヤホン「ワイヤレスパーソナルイヤースピーカー nwm MBE001」

世界初の技術を市場へ

「60名弱の社員のうち、約8割ががNTTグループ外からの採用。コンシューマー市場進出に向けて、音響メーカー、ファッション、広告、メディアなどさまざまな業界から人を呼んだ」と、NTTソノリティ 代表取締役CEOの坂井博氏は、“NTTらしくなさ”を作る人員構成を明かした。

坂井氏自身はNTT出身だが、コンシューマー向けビジネスを成功させるため、このような構成の企業になったという。

もっとも、同社はB2C専業ではない。イヤホンなどの製品事業に加え、B2Bの「パートナービジネス事業」、音のAR/XRに関する「音声DX事業」の3つを事業領域としている。

そもそも、同社のコアコンピタンスは“音を操る技術”だ。この技術は「音を閉じ込める」技術と、「音を仕分ける」技術からなる。

前者は、パーソナライズドサウンドゾーン(PSZ)技術と呼ぶ、NTTが開発した世界初の技術だ(図表1)。ある音の波形に180度位相を反転させた波形(逆位相)を重ねると音が消える原理を応用し、周囲に漏れる音を打ち消している。音のパーソナライズへのニーズの高まりを受けて2014年ごろから研究に着手。2020年のNTTR&Dフォーラムへの出展を経て、会社設立に結びついた。

図表1 PSZ技術

図表1 PSZ技術

ドライバー(音の出口)から一定距離のところで、ある音波(正相)に対し、逆位相の音波を当てることで、音波同士を打ち消し合い、耳元に音を閉じ込める技術(出典:NTT ソノリティ資料)

後者はインテリジェントマイク(IML)技術。必要な音と不要な音を仕分け、設定した範囲のみの音をクリアに届けることができる。2022年9月に法人向けに発売し、今年5月に一般向けのクラウドファンディングを開始したビームマイクスピーカー「LinkShell」にこの技術を搭載。「リビングでリモートワークをしていても、周りにいる家族やペットの声がWeb会議中の相手に聞こえる不安がない」レベルのノイズ抑制を実現しているという。

PSZ技術は当初、航空機の座席シートへの搭載を目指して開発を進めていた。ヘッドレストに2台のスピーカーを埋め込み、座った人だけにヘッドフォンなしで音声を伝えることのできる座席だ。しかし、クリアすべき基準の多い航空機向けは、採用から実稼動まで数年の時間を要してしまう。

さらにNTTの澤田純社長(当時、現会長)からは、「PSZ技術をより早く世の中に知ってもらうためには、B事業の成功を待たずに同時進行でC事業を立ち上げては」という率直な指摘もあった。この一言により同社は事業計画を大幅に見直し、B2C事業とB2B事業を同時に進めていくこととなった。

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