――5Gはビジネスをどう変えていきますか。
桑津 現状、5Gならではのアプリケーションは、韓国や中国に行っても、ほとんど見当たりません。「非常に高速なスマホ」以外の用途が今は無い印象です。
5Gのユースケースの大本命は、AI自動運転のような「リアルタイム制御」だと見ています。しかし、こうした人間以外の用途は、スマホと比べて時間がかかります。腰を落ち着けて取り組む必要があることを、再確認したということだと思います。
ですから、5Gの当面のユースケースは「ハイブリッドモデル」になると考えています。
決まったルートを走る自律運転バスのケースで説明しましょう。普段はAIで定常運行していますが、非常時には人間が運転します。ただし、人間はセンター側にいて、1人で6台くらいのバスを監視し、トラブルが起きた時だけ遠隔操作する。5Gの短期的なニーズとしては、こうしたハイブリッドモデルが来るでしょう。
――「AIプラス人」のハイブリッドですね。
桑津 単純な仕事はAIがやって、面倒くさい仕事は人間がサポートするわけです。
似たようなニーズは今いろいろな分野で出てきています。その1つが工作機械などのメンテナンスです。
最近の工作機械にはIoTデバイスが付いており、振動や温度などに異常があると遠隔のセンターで即座に分かります。そしてAIによる診断結果をもとに、トラブル原因の当たりを付けてから現場へ向かうのですが、AIで原因が分かるケースは全体の7割ぐらいなのですね。残り3割は行ってみないと分かりません。しかも、その3割の大半は、複雑で難しいトラブルです。
そこで現場作業員は、ウェアラブルカメラで該当箇所を映し、センターにいるベテランのアドバイスを聞きながら作業します。現在は4Gでやっていますが、5Gであれば4K高精細映像や複数アングルの映像もやりとり可能で、AIと人間の両方を包括できる十分な伝送容量を確保できます。
本当はAIが全部判断し、ロボットがすべて直してくれればいいのですが、現状はそこまで技術が進んでいません。
例えば、港湾のクレーン作業は超職人技でイレギュラータスクも多く、AIで全部行うのは難しいそうです。とはいえ、すごく高い場所にあるオペレーター席に人間がわざわざ登って作業しなければならないかというと、その必要性はない。自宅から遠隔操作すればいいのです。
――ただ、AIは日々進化しています。5Gへの移行が進み、映像をはじめとした、もっと大量のデータを学習可能になれば、AIでは難しい仕事もどんどん減っていくのではないですか。
桑津 そのスピードは速くなるでしょう。AIが囲碁の世界チャンピオンに勝つのが早かった理由には、過去の対局データの蓄積があったこともあります。5Gは、今まで非常に限られていた“シンギュラリティ”の領域を広げるんですよ。様々な現場にシンギュラリティをもたらすのが5Gです。
ハイブリッドモデルは当面の現実解であって、目的ではありません。最終的に目指すのはオールAIモデルです。