「メッシュ技術の標準化によって、Bluetoothはビルオートメーションやファクトリーオートメーションなどの産業分野でも広く使われるようになる」
クアルコムでIoT用のSoC(System on Chip)製品を担当する篠崎泰宏氏は、7月18日(米国時間)にBluetooth SIGが発表した新規格「Bluetooth mesh」の登場により、Bluetoothの活用シーンは大きく広がると期待をかける。
現在、パーソナルユースを中心に広く使われているBluetooth。その通信距離は、数mからせいぜい数十m程度だ。Bluetooth meshは、多数のデバイスを相互接続し、バケツリレー方式でデータパケットを中継するメッシュネットワークの機能を持ったBluetoothに付加することで通信距離を大幅に拡大する。これによりビルや工場全体をBluetoothでカバーすることが可能になるのだ。
Bluetooth meshは、クアルコムが2015年に買収した英CSR社の「CSRmesh」をベースに、Bluetooth SIGがIoT通信に広く活用できる技術として標準化したもの。CSRmeshは、2014年に対応製品が出荷が開始され、照明制御などの分野で利用されているが、標準化により様々なプレイヤーがメッシュネットワーク対応のBluetooth製品を展開できるようになる。
クアルコムでは「今後発売するBluetooth対応SoC製品をBluetooth mesh準拠に統一し、Bluetoothの利便性を高めていく方針」(篠崎氏)だという。
パケットを全デバイスに配信Bluetooth meshは、Bluetoothの省電力仕様であるBluetooth Low Energy(BLE)のブロードキャスト通信機能を利用してメッシュネットワークを実現する。ここでポイントとなるのが、CSRmeshで実用化されたフラッド(洪水)型メッシュと呼ばれる技術だ(図表)。
図表 IoT無線に使われる2タイプのメッシュネットワーク[画像をクリックで拡大]
メッシュネットワークは、ZigBeeやZ-Waveなど、すでに他のIoT向け無線規格でも実用化されている。ただ、その多くが採用しているのは、ルーテッド型メッシュである。ルーティング機能を持つ一部の高機能デバイス(ZigBeeでは「ルーター」と呼ぶ)に周辺のデバイスを収容し、相互に接続されたルーターネットワークを介して、デバイス間の通信を行う。
これに対して、フラッド型メッシュでは、ルーティングは行わない。あるデバイスがブロードキャストでデータパケットを送出すると、これを受信したデバイスが周囲のデバイスにブロードキャストで中継して全デバイスにパケットを行き渡らせる。受信したパケットを周囲のデバイスにブロードキャストする一方、受け取るのは自分のアドレス宛てのパケットだけだ。
このようにシンプルな仕組みを採用するBluetooth meshだが、これだけではパケットが溢れてしまう。そこで例えば、一度送信したパケットは再度送信しない、パケットの中継回数(TTL)に制限を設けるなどの制御を同時に行っている。
送信先はアドレスで指定するが、Bluetooth mesh/CSRmeshでは複数のデバイスをグルーピングすることも可能で、ビル全体や特定の部屋の照明をまとめて制御するといった使い方が可能になっている。
ネットワークに送出されたパケットをすべてのデバイスで中継するフラッド型メッシュの課題としては、各デバイスの消費電力が大きくなってしまうことが挙げられる。そこでBluetooth mesh/CSRmeshでは、電池稼働のセンサーデバイスなどは中継を行わないように設定し、商用電源につながった照明器具などを「リレーノード」として活用するのが一般的だ。