大型のコンテナ船を常用出力で運航させると、1日1隻当たり約1400万円の燃料費がかかる。世界トップクラスの船舶数、852隻(2016年3月時点)を運航する日本郵船にとって、燃料費の削減は切実な経営課題だ。
少し前の海運業界では、船体の調達費と乗組員の人件費が2大コストと言われてきた。しかし、燃料費の急上昇により、その状況に変化が訪れたのだ。
00年頃は1トン当たり百数十ドルだった燃料費は、08年のピーク時には700ドルを超えた。大型のコンテナ船は、常用出力の運航で1日に200トンの燃料を消費することから、1日1隻当たりの燃料費は14万ドル、日本円では約1400万円ということになる。
衛星経由で運航状況を自動送信燃料費の削減を実現するため、日本郵船が着目したのは、船に搭載された機器やセンサーから収集できるビッグデータだ。
「コンテナ船を運航する事業部門は、運航データを活用して適切に船を管理できれば、燃料費を削減できるのではないかと考えた」。こう話すのは、日本郵船のグループ企業で、船舶運航技術の研究・開発を行うMTIにおいて、船舶技術部門長を務める安藤英幸氏だ。
MTI 船舶技術部門長 安藤英幸氏 |
このような背景から、MTIが中心となり、船の運航データを可視化する「Ship Information Management System(SIMS)」というシステムを開発した(図表)。
図表 SIMSの構成イメージ |
SIMSは、船上で収集できる各種データを、通信衛星経由で陸上のデータセンターに送信し、運航管理スタッフがいるオペレーション・センターからほぼリアルタイムで運航状況を把握できるようにする仕組みだ。SIMSのトライアルを開始したのは08年。IoT/ビッグデータ時代の先駆けだ。
SIMSで収集する運航データは、「機関データ」と「航海データ」の2種類に大別できる。
機関データには、エンジンの回転数や燃料計の数値などがある。
また、航海データは、船の進行方向や速度、風速・風向など気象・海象など。例えば、ジャイロコンパスのデータから、船首の向きを判別する。また、GPSデータを利用し、実際に船が進んでいる方向を把握したり、海潮流の影響を含んだ船の速度である対地速度を計測したりすることが可能だ。対地速度の他、船の運航速度を表すものとして対水速度もある。これは、海潮流の影響を排除した水に対する速さを示すもので、ドップラーログ(対水船速計)で計測できる。
これまでは、1日に1回、乗組員が各データを記録し、陸上にレポートとして送信していた。しかしSIMSがあれば、1時間おきに陸上のオペレーション・センターに自動送信してくれる。