2025年春頃からロシア各地で大規模なモバイル通信の制限が頻発している。例えば、ニジニ・ノブゴロド州(モスクワから東に約420km)では同年6月〜7月にかけて州内の複数都市でモバイル通信の大幅な制限が数日間発生した。通信の制限は、露宇情勢を受けて飛来する無人機(ドローン)へ対処するため、ロシア政府の指示によって実施されている措置である。
通信制限中はアプリ等へのアクセスも制限され、例えば街中でタクシーアプリへアクセスできなくなったことによるタクシー運転手の仕事量の減少や、仕事量の減少によって地域のタクシー料金が2倍以上に値上がりした事例も報じられている。当初、同措置に関する政府からの公式説明がなかったことから、地域の住民からの苦情を受けて、一部の通信事業者は通信料金を割引きすることともなった。
このような一般生活への影響を軽減するべく、連邦デジタル発展・通信・マスコミ省は、通信制限中もアクセス可能なウェブサイト等の一覧「ホワイトリスト」を9月に公表した。リストには、政府や通信事業者に加え、銀行決済システム、Ozon(オンライン市場)やYandex(検索等サービス)、Rutube(動画配信サービス)等の日常生活で多用するサイトが中心的に含まれている。その後、航空・金融取引・不動産売買・報道・求人情報・天気予報のサイトも継続的に追加され、今後もリストは拡充見込みである。
また、11月には、ロシア国内において72時間以上非アクティブのSIMを再接続する場合、及びSIMがロシアに入国した場合に、SIMを24時間使用できなくする「クーリング(冷却)期間」の導入が開始した。後者のケースには、外国のSIMが国際ローミングで初めてロシアのネットワークに接続する場合、及びロシアのSIMが国際ローミングから戻って来てロシアのネットワークに再接続する場合の両方を含む。すなわち、SIMがドローンに使用される可能性があるため、一定期間ロシアのネットワークに接続していない全てのSIMが同措置の対象となっている。冷却時間は、ドローンのバッテリー時間を十分超えるよう考慮して設定されたとも報じられている。この措置においても、例えばロシアの住民が一時的に国外へ旅行し、戻って来た時に空港で携帯電話等を使用できない不便が大きいことなどから、SIMがドローン内蔵のものではなく、人が使用していることを証明できれば、24時間以内でも冷却を解除できる仕組みが併せて提供されている。
通信制限に関与する通信事業者側の免責を確保するための法整備も、準備が進められている。ロシア政府は11月に、連邦「通信法」第44条及び46条の改正法案を連邦議会へ提出した。第46条改正案は、安全保障上の脅威から国民を守るため、政府から要請を受けた通信事業者は通信サービスの提供を停止しなければならないことを義務付けており、第44条改正案は、同法第46 条に基づき政府からの要請で通信事業者が通信サービスを停止した場合は、契約不履行には該当せず、通信事業者は加入者に対する責任を負わないと規定している。
以上のとおり、通信制限に伴って生じる様々な弊害の軽減に向けた取組がロシアでは実施されている。しかし、例えば第46 条改正案は安全保障上の脅威と見なされるあらゆる事態が要請の対象となる可能性があり、通信制限の法的根拠が強化されることへも懸念が示されている。筆者としては、まずはこのような通信制限の背景となる困難な国際情勢の早期沈静化を願うところである。
※本稿は、筆者の個人的見解である。
[月刊テレコミュニケーション 2026年3月号の記事を再構成]











