英国では、近年、AIを経済成長、公共サービス改革及び安全保障を横断する国家戦略の中核として位置付け、その政策体系の再構築が進められている。特に2025年以降は、従来の研究開発中心の取組から、計算資源やデータ、企業基盤を国内に集積する「AIを創出・実装する国」への転換が明確となっている。以下、これまでの経緯及び最近の主な動向について概観する。
英国のAI政策の出発点は、2021年に公表された「National AI Strategy」であり、今後10年間の基本方針として、研究力強化、人材育成、国際的リーダーシップの確立等が掲げられた。その後、2023年にはAI規制に関する白書が公表され、包括的なAI法を制定するのではなく、既存の規制当局が分野ごとに対応する「親イノベーション型」の枠組みが採用された。
また、同年にはAI Safety Summitが開催され、フロンティアAIの安全性評価を巡る国際的議論を主導するとともに、「AI Safety Institute(後に、AI Security Instituteに改称)」の設立により、技術的評価能力の強化が図られている。
その後の大きな転機として、2025年1月に「AI Opportunities Action Plan」が公表され、同計画では、計算資源、データ、人材、公共サービスへの実装及び国内企業の育成を柱とし、計算資源の拡充については「AI Research Resource」の強化等に最大20億ポンドを投じ、2030年までに計算能力を20倍に拡大する目標が掲げられている。
また、データ分野では、政府保有データの活用を促進するため、「National Data Library」に対し1億ポンド超の投資が行われている。
さらに、地域及び産業政策の観点からは、「AI Growth Zones」が複数地域に指定され、電力接続や開発許認可の迅速化といった優遇措置を通じて、民間投資の呼び込みが図られている。加えて、2026年4月には約5億ポンド規模の「Sovereign AI Unit」が発足し、出資に加え、大規模な計算資源(GPU時間)、迅速なビザ発給、政府調達やデータ提供の支援を組み合わせることで、有望なAI企業の国内定着を促進する方針が示されている。
これらの施策は、Department for Science, Innovation and Technology(DSIT)を中心に、関係省庁や民間企業等が連携して推進されている。政府の狙いは、AIの社会実装による行政効率化や公共サービスの高度化に加え、計算資源及び企業基盤を国内に確保することにより、経済価値の創出と安全保障上の統制の両立を図る点にある。
一方で、課題としては、大規模データセンター整備に不可欠な電力接続がボトルネックとなっているほか、高度人材の不足も継続している。また、オンライン分野におけるOnline Safety Actや教育分野における安全基準など、分野別規制が重層的に適用される中で、政策の機動性と一貫性をいかに確保するかが今後の重要な論点となっている。
以上のように、英国はAI政策を単なる研究支援にとどめず、計算資源、データ、産業基盤及び規制を一体的に捉えた包括的な国家戦略として展開している。
日本においても、AI政策を産業基盤政策として統合的に推進する観点や、社会実装と基盤整備を並行して進める設計は参考となるが、同時に、地域受容や人材確保といったボトルネックへの対応が不可欠である点にも留意する必要がある。今後の英国の政策動向について、引き続き注視していきたい。
※本稿は、筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではない。
[月刊テレコミュニケーション 2026年6月号の記事を再構成]










