アイ・ティ・アール(ITR)は2011年11月29日、国内企業を対象に2011年9月から10月にかけて実施した国内IT投資動向調査の結果を発表した。同調査では、日本企業の成長力低下の危惧と東日本大震災の影響を受けて、2011年度に企業のIT投資がどのような動きを見せたか、また2012年度に向けた方向性に着目している。
まず、企業のIT予算額の増減に関して、2011年度実績と2012年度の見通しを示したのが図表1だ(有効回答数:553社)。2011年度は、予算額が増額した企業が前年度とほぼ同水準となり、減額した企業は2010年度調査と比べて下降、全体としては若干のプラス成長となった。
【図表1】IT予算額増減の経年変化(2010~2012年度予想) 出典:「IT投資動向調査2012」ITR |
一方、2012年度について、ITRの舘野真人シニア・アナリストは「若干上向く」と予想した。図表の通り、IT予算の増額を見込む企業の割合は下降するものの、減額を見込む企業も減少。総合的には2011年度と同水準あるいは若干のプラス成長を見込んでいるという。ただし、懸念材料として(1)IT予算を増やす企業の割合が過去最低で、(2)横ばいとの回答が非常に多いという2点を指摘。「今後、IT投資は本格的な低成長時代に入る」との予測を示した。
さて、ITRでは毎年同様の調査を行なっているが、今回大きな変動が見られたのがリスク対策費用の比率だという。2010年度から特に大きく上昇したのが、「情報セキュリティ対策費用」と「災害対策費用」の2つ。特に後者については、大きな伸びが見られた(図表2参照)。特筆すべき点として、「大企業から中堅・中小企業まで、企業規模を問わず比率が伸びている」(舘野氏)ことが挙げられる。
【図表2】IT予算に対する情報セキュリティ対策費用および災害対策費用の割合の経年変化 出典:「IT投資動向調査2012」ITR |
東日本大震災後に企業が実際に行った施策に関する調査結果を示したのが、図表3だ。項目別に見ると、グラフ上部(経営計画や事業計画の見直しなど)の施策については2011年度内に着手している企業が相当数見られる一方、グラフ下部の施策は、2012年度以降に実施予定と回答している企業が増えている。依然として、BCP(事業継続計画)の見直しやディザスタリカバリ、クラウドへの移行など、残された課題は少なくないと言うことができるだろう。
【図表3】東日本大震災後の企業における施策の実施状況 出典:「IT投資動向調査2012」ITR |
また、製品・サービス別のIT投資意欲については、特に2012年度に向けて伸び率の高いものとして「モバイル端末/スマートフォン」「クライアント仮想化/シンクライアント」の2つを挙げた。これも企業規模を問わずに見られる傾向だとして、舘野氏は「2012年度はクライアント環境の多様化が進む」と予測した。