太陽光や振動、熱など、環境中にある微小なエネルギーを収穫して電力に変換するエナジーハーベスティング（EH：環境発電）。センサーや通信機器への電力供給が容易になることから、IoT活用を後押しする技術として期待を集めてきた。
このEH技術は電源確保が難しい屋外での活用を想定したものが主流だ。実際に、森林火災の検知、物流のトラッキング、家畜の健康管理など様々な分野で使われている。
ただし、屋内がターゲット外というわけではない。白色LED光や振動・熱を使って発電することで継続的に電力が得られれば、電池交換の手間なしにIoTセンサーやウェアラブル端末等を稼働させ続けることができる。
これを実現するための全く新しい技術が、2023年にソニーセミコンダクタソリューションズから登場した。環境中の電磁ノイズから電力を生み出す新モジュールだ。
ソニーセミコンダクタソリューションズが開発したエナジーハーベスティング用モジュール（7mm角）
無駄に捨てられる電力を再利用
電磁ノイズとは、電子機器等から発生する不要な電磁波のこと。周辺機器に干渉を引き起こしたりする厄介な存在でもある。家電やオフィス設備などAC電源で動く機器の電力変換効率はよくて90%程度。電力の10～20%は熱や電磁ノイズとして放出されている。
「無駄に捨てられている、このエネルギーを回収して再利用しようというのが、発想のスタートだった」と語るのは、今回の新モジュールを開発したアナログLSI事業部 チューナー製品部の吉野功高氏だ。非常にシンプルな仕組みで家電やオフィス機器、工場設備等から“捨てられているエネルギー”をリサイクルしてIoTに使うことが可能になるという。
ソニーセミコンダクタソリューションズ アナログLSI事業部 チューナー製品部 吉野功高氏
「電界型エナジーハーベスト」と呼ぶこの技術は、家電やロボット等のAC電源で動く機器から出るノイズを使って発電する技術だ。原理を示したのが図表1である。
図表1 ソニー「電界型エナジーハーベスト」の原理
一般的に、電磁界エネルギーはアンテナで収穫する。アンテナが大きいほど広範囲かつ高効率に収穫が可能という。
本技術では、最も構造が単純なダイポール構造アンテナ（図表1の左側）の仕組みを使う。これは2つのエレメントで構成されるが、片側は、冷蔵庫や洗濯機、ロボットといったノイズ源となる機器自体をエレメントとして使う（図表1の右側）。もう片方はアースライン（図のGND）に落とすことで、「様々な周波数の電磁波を取り込み、大きなエネルギーが取れる。かつ、構造がシンプルなので小型かつ安価にモジュールを作る」ことに成功した。
図表2のように、AC電源駆動機器とアース端子の間に、電磁ノイズを収集して発電し、蓄電する“電源BOX”を後付けで設置することを想定している。つまり、電磁ノイズからDC電源を作るわけだ。
図表2 適用事例：電源BOXでの活用
AC電源からDC電源を作る手間はかなり大変で、かつ一般的な電池を使えば交換の手間も発生する。チューナー製品部 統括部長の豊田晃行氏によれば「スマートホームやスマートファクトリーといった用途でIoTセンサー／通信機器を動かすDC電源が欲しいケースでも、周辺のAC電源から取ってくるのは面倒。我々の技術はこの問題を解決できるうえ、AC電源稼働機器が動いている間は使い続けられる」と話す。
ソニーセミコンダクタソリューションズ アナログLSI事業部 チューナー製品部 統括部長 豊田晃行氏
加えて、機器から出るノイズ成分が減るので周辺への影響が減るという副次的効果もありそうだ。また、収穫電力の変化から、ノイズ源のオフィス機器や家電の「稼働状態のセンシングにも使える」。まさに一石三鳥だ。
