5Gを産業分野、社会インフラで活用する取り組みが進み、Beyond 5G時代にはセルラーネットワークが社会の神経網としての役割を担うことが期待されている。周波数が逼迫するなか、電波をより有効に使うとともに、無線通信の信頼性をさらに高める新技術への期待が高まっている。
この観点で2022年度から新たに始まる取り組みが「周波数資源の有効活用に向けた高精度時刻同期基盤の研究開発」だ。総務省が進める「電波資源拡大のための研究開発」の1つとして、情報通信研究機構(NICT:エヌアイシーティー)を中心に13の企業・団体が参画する。
5Gシステムは基地局や端末が時刻情報を共有することによって正確かつ安定的な運用を可能にしている。マイクロ秒(10のマイナス6乗)以下の誤差で基地局間の無線送出タイミングを合わせる。この時刻同期の精度は、5G通信の信頼性や低遅延性の土台となっている。
この精度を高めることで、周波数の利用効率を大幅に改善しようというのが本研究の目的。ターゲットは「ピコ秒(10のマイナス12乗)」レベルの精度だ。
加えて、現在の時刻同期システムが抱える脆弱性の問題を改善し、より強固な時刻同期基盤の実現も目指す。NICT 主任研究員の原基揚氏は、その意義を次のように述べる。
「セルラーネットワークへの要求は単なる携帯電話の利用だけでなく、ドローンやロボットの協調制御のように様々な端末へと広がっていく。現在の時刻同期はGNSS電波に頼る脆弱なもので、その冗長性やロバスト性を高めた環境が必要になるはずだ。また、非常に高精度な時刻同期が可能になれば『電波の飛ばし方』も変わり、電波の使い方を拡張できる可能性もある。それらの結果として、周波数を取りこぼしなく使えることにつながる」
図表1 時刻同期技術と精度、今回の研究開発プロジェクトの対象