大海原でも砂漠でも山岳地帯でも、そしてインフラが壊滅した被災地でも、スマートフォンさえあれば通話やインターネットができる──。
そんな日が実現するのも遠くない。“5G対応”の通信衛星を携帯電話基地局として使い、地上のスマートフォンと直接通信できるようにする「5GNTN」の標準仕様が今年春に出来上がった。衛星通信専用端末を持ち歩く必要はなく、スマホ1つあれば、もはや“圏外”を気にする必要がない時代が近づいている。
移動体通信事業者(MNO)は、これまでエリア構築が難しかった地域を低コストに5Gエリア化できる手段を手にする。衛星通信会社にとっても、セルラー通信という巨大市場への道が拓ける。通信業界へのインパクトは特大だ。
5G NTNは、移動体通信の標準化団体である3GPPの最新規格Release 17(2022年6月に完了。以下、R17)で初期仕様が策定された。今後、通信事業者のネットワークと5Gデバイスに、この機能が織り込まれていく。衛星側の対応ももちろん必要だが、エリクソン・ジャパンCTOの藤岡雅宣氏によれば、「うまくいけば2025年頃から、5Gスマホが直接LEO(低軌道衛星)にアクセスできるようになる」見通しだ。
宇宙開発の主体が国や国際機関から企業へとシフトするなか、衛星通信サービスは急速に変容している。代表例が、米SpaceXの衛星ブロードバンドインターネット「Starlink」だ。高度300~1500kmと、静止衛星(GEO)よりも地表に近いLEOを数百~数千基打ち上げ、それらを連携させることで地球全域を覆う「LEOコンステレーション」によってブロードバンドサービスを提供する取り組みが加速している。
こうした衛星通信サービスは、衛星通信会社が独自に行うものだが、5GNTNの狙いは、空・宇宙空間のネットワークを地上の5Gと連携させるための国際標準を作ることにある。対象にはGEO/LEOのほか、成層圏(高度約20km)を飛ぶ飛行船・気球や無人飛行機を使う成層圏プラットフォーム(HAPS)、そして商用航空機(ATG)も含まれる(図表1)。R17ではGEO/LEOをターゲットに最初の仕様が作られた。
図表1 3GPP標準の対象となるNTNシステム