――日本の通信事業者は、どの業界と5Gビジネスを進めていくべきなのでしょうか。
堀口 グローバルの5G BtoB市場は、2030年頃には7000億ドルの規模感になると予測されています。産業別上位3社で言うと、ヘルスケア・製造業・エネルギーです(図表)。同率3位で自動車業界も上がってきています。日本の通信事業者は今挙げたような業界に何かしらのフットプリントを残していくべきです。
図表 産業別5G BtoB ビジネスシェア/成長率(2030年時点)
特に日本においては、製造業のポテンシャルが高いと考えています。例えば、スマートファクトリーにおけるロボット技術は、ユースケース拡大の1つのカギになると見ています。製造業はその特性上、ロボットが開発されてもその技術を横展開するのが難しかったというのが事実です。ただ、今は個別性の高い作業の自動化にも対応できる革新的な技術を持った企業が出てきています。その技術革新とネットワークをセットにして展開していくと、5Gビジネスの道が開けてくるのではないでしょうか。
――5Gの「費用対効果」を前に足踏みしてしまっているユーザー企業も多いのではないでしょうか。
堀口 5Gのユースケースを作っていく中で、そのようなハードルがあるのは事実です。このハードルを超えるためのカギは2つあります。1つ目は、「APIの標準化」です。スタンダードを作ることで通信事業者の先にいるアプリ・サービス事業者の競争が生まれやすくなり、クロスインダストリ―での5Gビジネスの活性化につながります。
2つ目は、「価格戦略の転換」です。従来の従量課金制に基づくプライシングでは、さらなるビジネスの発展は困難です。例えば、IoT機器がもたらす価値の一部を対価として貰うといった、通信のボリュームとは関係のない世界観でのプライシング設計を検討することが重要です。
島貫 「個社対個社」ではなく「業界対業界」の検討を行い、まず市場を作っていくことも大切です。ある程度マーケットが出来上がった状態で、個社でどう差別化するかの議論に移るのがスムーズです。
――製造業や建設業はローカル5Gの実証実験を進めていますが、今後も根気よく続けていくべきなのでしょうか。
堀口 技術実証自体は進めていくべきです。ただ、既存のビジネスを人からデジタルに置き換えるというだけだと、いずれ限界が来ます。業界特有の課題を明確にし、その課題を大きくソリューションに落とし込んでいく必要があります。結果としてその中に5Gが技術要素として組み込まれているという位置づけが理想です。