通信目的で敷設された光ファイバーケーブルをセンサーとして利用する取り組みが進んでいる。
光ファイバーケーブルでセンシングを行う技術自体の歴史は古く、その研究の端緒は1970年代まで遡ることができる。普及に向けた活動に弾みが付いてきたのは、AI技術の進歩により、光ファイバーで取得した大量のセンシングデータの解析が容易になり、事象の推定精度が飛躍的に向上したからだ。「NECでは、2019年より取り組みを本格的に開始した」とNEC ネットワークソリューション事業部門 トランスポートネットワーク統括部の青野義明氏は説明する。
光ファイバーセンシング技術の概要を図表1に示す。センシング装置から光ファイバーケーブルに試験光であるパルス光を送り、戻ってくる光(散乱光)を観測するというのが基本的な原理だ。散乱光の変化を時系列で観察することで、ケーブル上で変化が生じた位置を計測することができる。
図表1 光ファイバ-センシング技術の概要
ただ、そのためには、非常に微弱な散乱光の変化から目的の情報を正確に抽出することが必要になる。
そこで、散乱光の性質の違いを利用する。計測する事象に合わせ、強度や周波数が異なる散乱光を用いることになり、計測装置もそれぞれ異なる。
主に温度検知に利用されるのがラマン散乱光、ひずみ検知に利用されるのがブリルアン散乱光であり、振動検知にはレイリー散乱光が利用される。光ファイバー内で発生する散乱光としては最も強く、かねてより光ファイバーの光損失測定や破断点検に用いられてきた。「レイリー散乱光の位相変化は、光ファイバーの長手方向の伸び縮みと比例する」(NTT東日本 先端テクノロジー部 アクセス技術推進担当の江口周平氏)という性質を利用し、振動を計測するのがDAS(Distributed Acoustic Sensor:分布音波センシング装置)と呼ばれる装置だ。DASを通信用光ファイバーに接続して振動を検知し、その結果を解析することでモニタリングを行うことができる。