衛星通信の市場は需要の増加と多様化に伴い、構造を変え始めている。最大のトレンドは縦方向の拡張だ。
従来の衛星通信は、高度3万6000kmの静止軌道(GEO)衛星が中心だったが、近年、高度2000km前後の中軌道(MEO)/低軌道(LEO)衛星を多数連携させるMEO/LEOコンステレーション(以下、LEOコンステ)が台頭。さらに、成層圏を飛ぶ無人機を通信プラットフォームとして使うHAPSも実用化へと近づいている。
このように高度や衛星・無人機の数などが異なる様々なサービスが出揃うと、通信速度・容量や遅延、利用コストが異なる多様な選択肢が提供されることになる。新規参入と競争の活発化は、我々ユーザーにメリットをもたらすが、市場はさらに先を見据えて動き出している。
軌道をまたいだ連携だ。情報通信研究機構(NICT) ネットワーク研究所 ワイヤレスネットワーク研究センター 宇宙通信システム研究室 室長の辻宏之氏は、NTN(非地上系ネットワーク)の今後をこう展望する。
「縦方向へ広がっている衛星通信を、どのようにつないでいくのかが課題になる。GEO衛星もLEOコンステもHAPSも個別に進化し、面的に広がっていく。そこに今後は縦方向、3次元的な広がりが出てくる。Beyond 5G/6G時代には、TN(地上系ネットワーク)も含めて、それらがみなつながることが必要だ」
GEO/MEO/LEO/HAPSといった複数の軌道(オービット)を連携させるマルチオービット化には、どんな利点があるのか。
将来的には、図表1の黄色の線のように、異なる軌道上のシステムが電波や光のリンクで相互接続され、「様々な衛星事業者が混在し、かつ、互いにリンクを共用する」(辻氏)ことが想定されている。これにより、軌道ごとの特徴を活かし、弱点をカバーしやすくなる。
衛星通信の帯域は、地上の回線に比べると細い。限られた無線周波数でやりくりしなければならないからだ。大容量化を目指して光無線通信の適用も始まっているが、「太陽光発電のみに頼る衛星通信は送信電力が限られるため、通信速度には限界がある」(同氏)。
そのため、NTNは容量・速度の異なる様々な回線が混ざりあった状態となる。
加えて、GEOとLEO/MEO、HAPSでは通信サービスの特徴が大きく異なる。LEO/MEO衛星やHAPSは低遅延通信が可能で、一方、GEO衛星はサービスエリアの広さや常時接続性に優れる。それらが相互接続されていれば、用途や目的に応じて経路が選べて、多様なニーズを満たすことができるようになる。また、ディザスタリカバリの観点でも、相互連携には価値がある。