「DEXが生成AI時代を勝ち抜くカギ」 なぜデジタル従業員エクスペリエンスは重要なのか?

ガートナー ディレクター アナリスト オータム・スタニシュ氏

ガートナー ディレクター アナリスト オータム・スタニシュ(Autumn Stanish)氏

――DEX(デジタル従業員エクスペリエンス)とは、どういったものなのでしょうか。

スタニシュ テクノロジーに対する従業員の体験や、それを継続的に改善する戦略のことを差します。

例えば、Windowsの更新プログラムがなかなか進まなかったり、Web会議の通信速度が遅かったりすると、DEXの低下につながりかねません。最終的にはテクノロジーに限らず、従業員のあらゆる体験の改善につなげていくというのが、我々が提唱するDEXです。

――なぜDEXに注目が集まっているのでしょうか。

スタニシュ 生成AIやVRデバイス、スマートウォッチ等のビジネス活用が進み、従業員にとって先端テクノロジーが身近なものになってきたことが大きいでしょう。

また、コロナ禍でリモートワークが普及したことで、自社に対する従業員の期待値が上がりました。なぜなら、企業側がリモートワークという前例のなかった働き方を短期間で実現させたからです。こうしたある種の変革を起こした企業に対して、従業員はより高度なテクノロジーを求めるようになったのではないかと考えています。

――DEXの向上は、どんなメリットをもたらしますか。

スタニシュ DEX向上への取り組みは、人材の定着率を高め、結果として採用コストの削減につながります。また、自社が先進的なテクノロジーを導入している会社であるということを世にアピールできるので、企業ブランド力のアップも期待できるでしょう。

VMwareなどがDEX向上を支援するツール等を展開していますが、これは社内システムから取得したテレメトリをもとに、システムの使用頻度や使い勝手などを可視化できます。

例えば、「あるソフトウェアをAさんは使用しているが、Bさんは使用していない」といったことが見える化できるようになるわけです。Aさんにヒアリングしてソフトウェアの品質改善を行うのもいいですし、Bさんのライセンスを削除して経費節減していくといったことも可能になります。

8割以上が「受動型」と「適応型」

――DEXの取り組みには、「受動型」「適応型」「支援型」「加速型」「変革型」という5つのフェーズがあります。それぞれ具体的に教えてください。

スタニシュ 受動型の企業は、DEXに関する長期的な戦略を持たず、従業員の困りごとが発生したらその都度対応するといったスタイルです。グローバルの約32%の企業がこの受動型に属しています。

受動型と比べて積極的な姿勢を打ち出しているのが適応型で、デジタルツールを用いて職場環境や従業員のエンゲージメントをモニタリングしている企業が該当します。比率としては54%程度です。

支援型の企業は、モニタリングから得られた洞察を経営戦略に取り入れ、長期的な目線で従業員のやる気を引き出そうとします。支援型になると、その比率は13%と大きく下がります。

加速型の企業では、あるシステムを使用する従業員が、追加したい機能を自らチューニングできるような状態になります。ここまで到達している企業はわずか1%です。

変革型は、DEXを司るリーダー的存在とCEOクラスがチームを組んで経営戦略を策定し、全従業員に公平公正なDEXを提供したり、並外れたビジネス変革を実現している企業です。変革型に到達している企業は、世界中を見渡しても見当たりません。

図表 DEXインサイトのフロー

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