【連載】ミリ波のチカラ -超高速通信がもたらす新しい体験- の目次はこちら
映像制作の現場では、今も通信ケーブルが当たり前のように使われている。
撮影は、報道カメラにつなげたSDIケーブルを引き回しながら行われ、設営や撤収にはその都度、ケーブルを扱うための人手と時間がかかる。撮影できる範囲や動線も、ケーブルの長さや会場の設営環境によって制約される。
電源ケーブルについては、バッテリー技術の進化によってケーブルレス化が進んでいる。対して、通信においては、無線よりも信頼性が高い有線ケーブルが依然として使われている。その理由は明確だ。無線通信の品質は電波状態や混雑状況といった環境要因によって揺らぐからだ。
映像制作の現場では、番組に利用する複数のカメラ映像を同時にモニタリングしながら、一定時間安定している映像を放映する映像として選択する。乱れが発生する可能性がある映像は、撮影できていても採用されない。
つまり無線は、撮影現場で「使い続けられるか」で評価される。そしてその評価基準は平均的な品質ではない。混雑時でも品質の安定性が担保されること、すなわち良好な品質の「再現性」が求められる。

無線映像伝送においては、安定的に提供できる無線品質は「HD画質・伝送速度で上り5Mbps程度」という基準が主流であった。無線通信の品質が揺らぐ前提では、ビットレートを下げ、画質を抑え、低レートでも確実に映像を配信することを優先する。その結果、スマートフォン向けに提供されているネットワークの通信品質に合わせて配信映像を提供する構造が生まれていた。これでは、プロユースの基準を満たしているとはいえない。
プロの映像制作において価値があるのは解像度だけでなく、リアルタイム性や品質の安定性、および長時間にわたる安定性といった業務品質である。
では、5Gはその品質を満たせるか。
5Gは一般的に「超高速・低遅延・多数同時接続」の特徴で語られることが多い。しかし、報道などのプロ用途において重要なのは、これらのスペックそのものではない。
重要なのは、必要な品質を安定して満たし続けることである。一般用途では多少の遅延や揺らぎは許容されるが、映像制作の現場では一瞬の切断や揺らぎが利用可否を左右する。
したがって、5G の価値は単なるベストエフォートの性能指標ではなく、業務品質を再現し続けられることにある。特に映像制作現場の用途では上り通信(アップリンク)が支配的であり、アップリンクの安定性が業務成立の鍵となる。