2023年は、米国を中心に広がってきた低軌道衛星による通信サービスの国内展開が本格化した1年となった。
米スペースXがStarlinkの日本国内向けサービスを2022年10月に始めると、日本初の認定StarlinkインテグレーターとなったKDDIは同年12月、au回線のバックホールとしてのStarlinkの利用と、法人向けサービス「Starlink Business」の提供を開始。反響は大きく、2023年7月には同サービスのプランは6種類に拡充されている。
さらに9月にはソフトバンク、11月にはNTTドコモも相次いでStarlink Businessの提供を発表。各社は独自の衛星通信サービスに加えて、Starlinkも提供することで衛星コンステレーション時代に対応しようとしている(図表は主な衛星コンステレーションの動向)。
図表 主な衛星コンステレーション
KDDIは、「全国約1200局」のau基地局のバックホールとしてStarlinkを活用する方針を打ち出しているが、その進捗について事業創造本部 LX基盤推進部 通信ビジネスグループ グループリーダーの今村元紀氏は「既存衛星からStarlinkへの切り替えは、順調に進んでいる」と話す。
切り替えのためauのエリアカバー率に変化はないが、通信の速度や品質が向上。コストメリットが生まれる基地局もあるという。
通信不感地の解決に寄与しているのは、法人や自治体に対して提供している、Starlinkをバックホール回線としたau基地局の構築ソリューション「Satellite Mobile Link」だ。
今村氏によれば、法人でニーズが強いのは、ゼネコン、電力会社などのインフラ関連企業だという。「ダムや橋梁など既存インフラの点検にドローンを利用するために通信エリアを整備したいという声がある。また、各地で建設が進む風力発電所や、新幹線のトンネル工事などは僻地で行われることが多く、工事作業の効率化や安全確保のために通信環境整備が要望されている」。
また自治体では、港付近までしか光ファイバーが届いていない離島で、島内のエリア整備の要望がある。住民向けだけでなく、観光客向けを目的とする例もあり、今後もこうした通信環境整備のニーズが広がると予想される。
Satellite Mobile Linkは、企業の場合はクローズドなエリアで活用されるが、低廉なStarlinkを利用することで受益者負担の形で実現している。
KDDIは、Starlinkを5G基地局のバックホールにも活用しており、2023年8月に岐阜県・乗鞍岳畳平バスターミナルに整備した(写真)。今後もStarlinkにより通信環境の整備を進めていく考えだ。「4G・5Gともに、Starlinkを基地局バックホールに使う技術検証が済んでいるのは当社だけ」と今村氏は意気込む。