Wi-Fiに3つの新規格 30Gbpsに放送、センシングも

次世代のWi-Fi規格である「IEEE802.11be(以下、11be)」の全体像が見えてきた。

現在はIEEE802.11axの技術仕様をベースにWi-Fi Allianceが認証しているWi-Fi 6が最新規格となっているが、その次世代規格である11beでの議論が熱を帯びている。11beのTG(Task Group:規格ドラフトを策定するグループ)には、多くの研究者が参加して採用する技術やその先の仕様について議論しているが、11beでは従来のWi-Fiが注力してこなかった工場機械やドローンの制御、AR/VRなどのユースケースへの展開も期待されている。

5Gより速い30Gbps11beの大きな特徴の1つは、無線区間で30Gbpsのスループットを目指している点だ。高速大容量を特徴としている5Gの速度が20Gbpsであることと比べても、高速化への強い意欲がうかがえる。

11be TGに参加する東芝の足立朋子氏によれば、30Gbps実現のために検討している要素は主として4つある(図表1)。

図表1 802.11beの技術注目度

図表1 802.11beの技術注目度

1つは広帯域化だ。従来、2.4/5GHz帯を利用していたWi-Fiだが、今回は6GHz帯を利用して、320MHzものチャネル幅を利用する仕様が検討されている。無線はチャネル幅が広いほど、多くの情報を転送可能であり、高速化につながる。30Gbps実現のために欠かせない要素だろう。

2つめは変調方式の改良だ。11axで採用された1024QAMの1.2倍の伝送レートを実現する「4096QAMが検討されている」と足立氏は解説する。3つめはストリーム数で、「11axまでは最大8ストリームだったが、11beでは最大16ストリームを目指している」という。

そして最後に最も期待されている技術が「マルチリンク(ML)」だ。これは1台のアクセスポイント(AP)が端末との間で複数の帯域あるいは同一帯域上の複数のチャネルで並行して通信を行うための技術である。MLに対応するAPと端末は、物理的には1台であっても論理的には複数の機器になり、各リンクは異なるAPと端末同士で通信する形になる。320MHzと組み合わせてさらに広帯域化が図れ高速化に寄与する。

具体的な数値目標は定められてないが、11beでは遅延やジッター(ゆらぎ)の改善も目指している。MLはこの点からも期待されている。現行のWi-Fi 6の80/160MHz、また11beの320MHzでは複数のチャネルを束ねる「チャネルボンディング」という技術が採用されている。これは一部のチャネル(プライマリチャネル)の干渉で全体の通信が止まってしまう仕様だったが、これに対しMLならば1つのリンクで干渉が生じても他のリンクを利用して独立にデータを送信できるため、高速化と低遅延・低ジッターも期待できるというわけだ。

以上の他に、マルチリソースユニット(MRU)にも注目したい。Wi-Fi 6のOFDMA(直交周波数分割多元接続方式)では帯域を複数のリソースユニット(RU)に分割し、1RUにつき1端末を割り当てることで多くのユーザーを同時多重できる仕組みだが、「複数のRUを1つの端末に割り当てることも可能にするなど、周波数資源を柔軟に活用し伝送をロバスト化する技術が議論されている」と足立氏は語る。例えば、無線環境の悪い端末には多くの周波数資源を割り当てることで、通信を安定させることも可能になるだろう。11beの成立は2024年5月を予定している。

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