ユーザーや運用者のエクスペリエンス(体感)に重きをおくジュニパー2021年12月14日(火)、ジュニパーネットワークスは「Juniper Virtual Summit for Japan 2021」と題したオンラインイベントを開催した。
このイベントでテーマとして掲げられたのは「エンタープライズDXを支えるネットワーキングのあるべき姿―セキュリティからクラウド、AIOpsまで」である。ここでは、まず基調講演・特別講演を含むジェネラルセッションの内容から紹介したい。
デジタル技術の活用によるビジネスプロセスの改善や業務効率の向上を目指すDXには、すでに多くの企業が取り組んでいる。まず、Juniper NetworksのCEOであるラミー・ラヒム氏が登壇。ラヒム氏は、このDXを支えるのはネットワークであり、ネットワークで重要なのはつながること以上に、エクスペリエンス(体感)であると語った。
Juniper Networks CEO ラミー・ラヒム氏
エクスペリエンスを高めるためのソリューションとして、ラヒム氏が紹介したのはビッグデータと機械学習を組み合わせてユーザー体感を最適化する「Marvis」という同社の製品に組み込まれた、独自のAIエンジンである。
「Marvisは休むことなく働いて、安定したネットワークや優れたエクスペリエンスを提供しつつ、ネットワーク運用を効率化します」
ラヒム氏はこう話し、ガートナー社が最近発行した2021年度版「Magic Quadrant for Enterprise Wired and Wireless LAN Infrastructure(エンタープライズ向け有線/無線LANインフラストラクチャ分野のマジック・クアドラント)」でリーダーに選出されるなど、Marvisが高く評価されていることを説明した。
Marvisによるエクスペリエンス改善の事例として、ラヒム氏は実在の顧客からのトラブルチケットデータのグラフも示した。それを見ると、当初は人間の介入を必要とするトラブルが目立っているが、徐々に人間が介入することなくMarvisで自己解決できた問題が増加している。ラヒム氏は、「(Marvisで自己解決した)多くの場合、人間は問題が起こったことすら気づいていない」という。
同じく、ジュニパーネットワークス株式会社 代表取締役社長の古屋 知弘氏も「つながるだけではなく快適に利用できるユーザー体感(エクスペリエンス)こそがネットワークの今後の最優先で求められるもの」としたうえで、2021年におけるジュニパーの国内での取り組みを紹介した。
ジュニパーネットワークス株式会社 代表取締役社長 古屋 知弘氏
まずはMist AIであるMarvisの進化だ。2021年は、有線LAN、Wi-Fi、クラウドへとMarvisの適用範囲を広げAIによる運用自動化を可能とするAIドリブンエンタープライズの提供を可能とした。
次に2021年1月に買収したApstraの統合である。データセンターネットワークにおけるインテントベースドネットワーキングの概念をジュニパーのポートフォリオに組み込むことで、複雑になりがちなデータセンターのIPファブリックの管理を自動化し、運用エクスペリエンスの向上を実現した。
さらにEVPN-VXLANをキャンパスネットワークに提供し、今後増加するIoTデバイスをサポートできる拡張性の高いネットワークの構築。今までキャンパスネットワークへの採用を検討されてこなかった、EVPN-VXLANの設計・設定・運用といった部分をAIにより簡素化することで、信頼性の高いネットワークの構築を可能にした。
DXにおけるインフラ(セキュリティやネットワーク)の重要性について講演したのは、東京大学 情報セキュリティ教育研究センターの教授であり、デジタル庁でもシニアネットワークエンジニアを務める関谷勇司氏である。
東京大学 情報セキュリティ教育研究センター教授 関谷勇司氏
関谷氏は「サイバー空間のデータを分析したものがフィジカル空間に反映されて、それが人間の生活を豊かにしていく、この循環が生まれるものがサイバーフィジカルシステムだ」と語る。
具体例として関谷氏が挙げたのは、サイバー空間の分析結果を実際の運転動作に反映するコネクテッドカーや、売れ行きやラインの稼働状況といったデータを収集・分析してフィジカルの生産効率を高める製造業の取り組みである。こうした活動で鍵を握るのがデータだ。DXに取り組み、このデータを有効活用するためには、サイバーとフィジカル間でデータをスムーズにやり取りできるインフラを作ることが重要になる。
人任せにしないことも大切なポイントだと、関谷氏は述べる。特に日本企業は、システムの構築やアプリケーションの開発を外注することが一般的になっている。しかし単に業務効率化のレベルにとどまらず、デジタルテクノロジーを用いてビジネスの変革にまで踏み込むのであれば、企業が人任せにせず、主体的に取り組むのは当然だといえる。
このようにDXを解説した上で、「目的と手段を取り違えることなく、実現したいこと、改善したいことをどうやってDXしていくのか。それをアーキテクトできる人材と、それを受け入れる経営陣の判断、会社の柔軟性があれば、DXはできる」と関谷氏は話した。