3GPPで2025年から本格化する6Gの標準化で、In-Network Computing(INC)を6Gの仕様に盛り込もうという機運が高まっている。
INCとは、ネットワークとコンピューティングを融合するコンセプトだ。6G/IOWN技術の1つとして研究開発に取り組むNTTは、このINCを「端末およびクラウドが担っていた計算処理の一部をネットワークが代行し、ユーザーを端末性能やサービス環境の制約から解放する技術」と位置付ける。
これによって、どんなサービスが可能になるのか。NTTドコモ 6Gテック部 担当部長の平間康介氏はその意義について、「処理能力が高くないデバイスでも高品質なサービスを享受できる。例えば、AIやXRをウェアラブル端末やスマートグラスで使おうとする場合、デバイスの装着感を考慮すると高い処理能力をもたせることは難しいが、そういったシーンとINCは親和性が高い」と話す。
モバイル網内のコンピューティングリソースを活用して、クラウドよりも端末に近い場所で処理を行うINCは、リアルタイム性の高いアプリケーションに適する。通信事業者が通信品質を管理・制御できる環境内でサービスを完結できることも、クラウドとの差別化要素となる。
例えばXRサービスなら、VR空間の映像合成処理を端末で行うのではなく、クラウドから端末までの経路内のネットワーク機器等で行い、処理済みの映像をデバイスに送信する。端末は受け取った映像を表示するだけなので、高性能なGPUを搭載する必要はない。
NTTとドコモがINCの基盤技術として開発しているのが「ISAP(In-network Service Acceleration Platform)」。端末やサーバーとネットワーク内のコンピューティング機能を高速に同期・連携させる技術だ。
両社は2024年2月にISAPの実証に成功。3GPP標準準拠のモバイルコアを拡張するかたちで、コンピューティング能力を具備したモバイルネットワークを構築し、高性能なアプリを低遅延に利用できることを世界で初めて実証した。
この場合のコンピューティング能力とは、MECのようなネットワークエッジだけに留まらない。「コアネットワーク機能のリソースを使う可能性もあるし、RANのリソースを使う考え方もある。どう実装するのかには様々な意見がある」と話すのは、6Gテック部の山内健太氏だ。また、CPUだけでなくGPUやFPGA、DPU、SmartNICといったアクセラレーターを各所に配備し、アプリ/サービスの特性や処理内容に応じて使い分け、あるいは組み合わせて使う形態が考えられている。
ISAPとは、こうしたネットワーク内のコンピューティング機能を、端末/サーバーと連携させる仕組みだ。「端末とアプリ、ネットワークが連携して、賢くリソースを使うのがISAPの特徴」と山内氏。他国の通信事業者/ベンダーも独自にINCの実現方式を提案するなど議論が活発化してきているが、NTTとドコモはISAPの開発により、標準化をリードしたい考えだ。