「5G TSNで1μ秒の壁を超える」ソフトバンクが通信事業者で初の実証成功

5Gの特徴の1つに高信頼・低遅延通信(URLLC)がある。従来のセルラー通信と比べて通信遅延を極めて小さく抑えることが可能だ。

しかし、生産現場には“遅延が少ない”だけでは通用しない領域がある。AGVや搬送用クレーンの制御、緊急停止制御、ロボットハンド制御といった制御系通信だ。この領域で産業用プロトコルを安定的に動作させるには、通信システム全体で次の2つを担保しなければならない。

1つが低ジッター。遅延の揺らぎが少なく、常に一定の間隔でデータが届くこと。2つめが高精度時刻同期だ。ネットワーク上のすべての機器が極めて正確に時間を共有する必要がある。

この非常に高いリアルタイム性と高精度時刻同期を保証する通信技術が、TSN(Time-Sensitive Networking)である。イーサネットの拡張技術である産業用イーサネットでこれまで実現されてきたこのTSNを無線化することも、5Gの挑戦の1つである。

標準化団体の3GPPは2020年に完了したRelease 16(以下、Rel.16)で、TSNの機能を5Gネットワーク上で実現する「TSN over 5G」(以下、5G TSN)を仕様化。その後、Rel. 17/18で段階的に拡張してきた。

ソフトバンク 先端技術研究所 先端技術開発部 次世代ネットワーク開発課 課長 小林謙吾氏

ソフトバンク 先端技術研究所 先端技術開発部 次世代ネットワーク開発課 課長 小林謙吾氏

5年余りが経過しても、実用化には至っていなかったが、ここに来て、5G TSNの接続実証に初めて成功した通信事業者が現れた。ソフトバンクだ。同社 先端技術研究所 先端技術開発部 次世代ネットワーク開発課 課長の小林謙吾氏は、「ケーブルの制約から解放され、ロボットや設備の配置を柔軟に変更可能になり、高価な産業用ケーブルや配線施工、メンテナンスの費用も削減できる」と話し、工場のあり方を大きく変える可能性があるとその意義を強調する。

また、AI時代を迎え、5Gネットワークで制御系通信を可能にする5G TSNは、OTとITの融合にブレイクスルーをもたらす技術としても注目される。

既存の産業用機器に5Gを導入

今回の実証は、村田製作所とCC-Link協会(CLPA)の協力のもと行われた。

ネットワークスライシングによるプライベート5Gを用いて5G TSN環境を構築。ジッターについては「既存の5Gでは約10ミリ秒(ms)あったゆらぎを、0.1ms程度に抑制」(小林氏)し、時刻同期に関しては、3GPPの要求条件が900ナノ秒(ns)であるところ、平均122nsという圧倒的な精度を達成した。

さらに、CLPAが認証する産業用イーサネット規格「CC-Link IE TSN」のうち最も要件の厳しいClass B仕様に準拠した産業用機器が、この5Gネットワーク上で動作することも確認した。

CC-Link IE TSNの制御系通信には、時刻同期機能を持たないClass AとClass Bがある(図表1)。Class AはWi-Fiでも認証取得が可能だが、Class Bは、1マイクロ秒(μs)以下の同期精度が求められる。

図表1 無線・5G の活用 −認証カテゴリごとの用途例−図表1 無線・5G の活用 −認証カテゴリごとの用途例−

今回の実証では、1μs以下で6時間超の連続通信に成功し、有線ネットワークと遜色ない性能を示した。制御系通信で使えるか否かの壁を突破したことになる。

CC-Link 協会 事務局長 濱口学氏

CC-Link 協会 事務局長 濱口学氏

生産現場では、1μsの同期が取れなくなった時点で、安全のためにその機構は制御用ネットワークから切り離される。CLPA事務局長の濱口学氏によれば、「産業用機器やロボットはすべて、この1μs以下を基準に作られている」ためだ。

もちろん、同期精度が10μsでも工場で使えないわけではないが、「その場合は、5Gを使う場所だけ専用の機器を開発して使わなければならない」(濱口氏)。つまり、無線化するためにあえて性能の劣るロボットを選ばなければならないことになる。それでは普及は見込めず、今回の実証成果は、既存の産業用機器と制御系ネットワークに“そのまま”、5GをTSNブリッジとして導入できる点で画期的と言える。

無料会員登録

無料会員登録をすると、本サイトのすべての記事を閲覧いただけます。
また、最新記事やイベント・セミナーの情報など、ビジネスに役立つ情報を掲載したメールマガジンをお届けいたします。