社員がミーティングをしているテーブルに、小ぶりなロボットが1台。首を振ってホワイトボードや発話者に目を向けながら議論に耳を傾けている。うなずいたり、両手を挙げて賛同を表したり、時には自ら意見も述べる。
NTT東日本では、こんな光景が見慣れたものになった。会議の場だけでなく、“自分”の机に座って周囲とコミュニケーションを取っていることもある。個性を抑えたデザインと愛らしい仕草も相まって、職場の雰囲気にもすっかり溶け込んでいる。
テレビ会議では“何か足りない”「OriHime(オリヒメ)」と名付けられたこのロボットは、吉藤健太朗(吉藤オリィ)氏がCEOを務めるオリィ研究所が開発した分身ロボットだ。冒頭のような動作は、在宅勤務で働く社員が、スマートフォン/タブレットのアプリを使ってインターネット越しに操作している。
OriHimeは、喜怒哀楽が様々に見える能面を参考にデザインされており、
利用者の表情を想像できる効果があるという
利用者は、OriHimeの内蔵カメラの映像とマイクが拾う音で、遠隔からでも職場の状況がわかる。スピーカーを介して話すことも可能だ。
操作は至って簡単だ。専用アプリの画面で上下左右にスワイプすれば見たい方向に視線を向けられる。画面右端のジェスチャーボタンをタップすれば、うなずいたり、首を振ったり、手を挙げたりとジェスチャーで意を伝えられる。
なお、自ら移動はできないが、片手に乗るほど小型軽量でWi-Fi通信機能を備えるため、自席でも会議室でもどこでも持ち運べる。
操作アプリ「OriHime Biz」の画面。右端に「はい」や「いいえ」「ぱちぱち(拍手)」などの
予め登録されたアクションボタンが並んでいる。上下左右へのスワイプで視線を動かせる
NTT東日本がこのOriHimeを採用した目的は、在宅勤務者が抱く“疎外感”を解消することだった。総務人事部 ダイバーシティ推進室 担当課長の上村雄亮氏は次のように話す。「電話やメール、チャットなど、在宅勤務する人が社内とコミュニケーションする手段はいろいろあるが、臨場感をもって仕事をしないと進まない業務では“何かが足りない”と感じていた」
臨場感を高めるツールとしてはテレビ会議があるが、「家の中が映るため、使いたくないという声もあった」という。
NTT東日本 総務人事部 ダイバーシティ推進室 担当課長の上村雄亮氏
そんな折、元来は医療・介護現場向けに開発されたOriHimeをオフィスで使ってみようという検討が始まった。2016年にNTT東日本とオリィ研究所は共同研究を開始。在宅勤務社員の分身として使い始めた。
それから2年余り、今ではOriHimeも“60人”に増え、NTT東日本管内の全事業所に数台ずつ配備されている。同社は、社員が日数の制限なく在宅勤務ができるテレワーク制度を施行しており、OriHimeも特に職種等を問うことなく、利用申請をした希望者に貸与されている。