NTT持株の澤田純新社長、NTT東日本の井上福造新社長は、山間部などの過疎地の固定電話(加入電話)について、携帯電話網などの無線を活用して効率化する検討を進める考えをメディアに明らかにした。NTT東西合計で、年間約800億円にも及ぶ加入電話の赤字縮小が狙いだ。
「ユニバーサルサービス」として全国あまねく提供することがNTTに義務付けられている加入電話。その契約件数は、携帯電話の普及などを背景に、ピーク時の約3分の1となる1754万契約まで減少している。加入電話を維持するには、保守・運用コストの削減が不可欠だ。
2025年1月に完了するPSTNのIP網への移行も、ネットワークコスト削減の重要な手立ての1つとなる。だが、IP網への移行後も、変換装置を介すことで、既存のアナログ電話機がそのまま利用できる「メタルIP電話」は提供される。光回線とメタル回線は併存したままだ。特に利用者の少ない山間部などのメタル回線の維持コストをいかに削減していくかは、NTTにとって大きな経営課題であるが、そこで有力視されているのが携帯電話網などの無線の活用である。
PSTNのIP網への移行方法を検討している情報通信審議会の「電話網移行円滑化委員会」は、2017年3月と9月の2回にわたって取りまとめた報告書で、無線や光回線を用いて加入電話を提供するために必要な論点整理を総務省に求めている。この議論に向けて、NTTは具体策の検討に動き出した。
図表1 IP網移行後のアクセス回線
コスト低減の有力解NTTが実現に意欲を見せる携帯電話網などの無線を活用した加入電話サービスは、どのようなものになるのか。
NTT東日本で経営企画部 営業企画部門長を務める徳山隆太郎氏は、「具体的な内容はまだ決まっていない」とするが、NTTが昨年6月に電話網移行円滑化委員会に提出した資料には、その原型ともいえる提供イメージが示されている(図表2)。
図表2 モバイル網を活用した固定電話サービスのイメージ[画像をクリック拡大]
NTT東西固定網とモバイルのデータ通信網を接続し、電話サービスを提供するというものだ。その端末としては、アナログ電話機やファクシミリを接続して利用する「SIM内蔵アダプタ」とともに、「SIM内蔵電話機」の利用を想定している。
この網形態を前提とすると、携帯電話網の活用は、過疎地域での加入電話の提供手段としてかなり魅力的なものとなる。
音声通信のデータ量は限定されるので、仮にモバイルのデータ通信網を現行のMVNOと同水準で借りられるとすれば、IP網への移行後のメタルIP電話と同じ、全国一律3分8.5円という通話料金も実現できそうだ。
携帯大手3社のLTE網は人口カバー率が99.9%を超えており、山間部の集落の大半でサービスを提供することが可能だ。携帯電話網でカバーできないエリアのユーザーは別の方法で収容する必要が出てくるが、それでもトータルでの提供コストはメタル回線を維持するより抑えることができるだろう。