Wi-Fi版LPWAといえるIoT向け無線技術「IEEE802.11ah」(Wi-Fi HaLow)の日本での利用実現を目指す「802.11ah推進協議会」が、2018年11月7日に都内で設立総会を開き、正式発足した。
802.11ahは、LPWAや無線タグなどで使われている日本の920MHz帯など、1GHzよりやや下のサブGHz帯を用いる無線LAN規格だが、日本ではまだ利用が認められていない。802.11ah推進協議会では来年、実験局免許を取得して実証実験を行い、IoT無線システムとしての優位性をテコに早期の利用解禁を図る。
協議会には、NTT東西、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手通信事業者をはじめ機器メーカーやSier、大学など56の企業・団体が参加。802.11ahの早期実用化に向けて、技術検討や関係機関への働きかけ、普及促進活動などに取り組んでいく。
総会で会長に選出された無線LANビジネス推進連絡会 顧問の小林忠男氏は、記者説明会で「LoRaWANやSigfox、NB-IoTなどのLPWA技術の中で802.11ahは最後発となる。だが、今は802.11ahをスタートするうえで非常にいいタイミングなのではないか」と述べた。
「先行していると言われるLPWA技術も実証実験を経て、これからビジネスをどうやっていくのかを考える時期であり、課題も見えてきている。その中で802.11ahの優位性を訴求できる」と見るのだ。
(左から)802.11ah推進協議会 会長の小林忠男氏(無線LANビジネス推進連絡会 顧問)、
副会長の長谷川敏氏(横河電機)、運営委員の酒井大雅氏(NTT東日本)
小林氏が、802.11ahの利点として強調したのが、「無線LANの唯一のデファクトスタンダードであるWi-Fiのファミリーであり、端末、アクセスポイント、クラウドまでエンドエンドでユーザーが自由にネットワークを構築できる」点だ。
さらに小林氏は802.11ahの仕様面での特徴を説明し、「Wi-Fiに比べ、到達距離は10倍(1km程度)、LPWAに対して伝送速度は10倍以上(1Mbps以上)になる」とまとめた。「日本の920MHz帯で802.11ahが使えるようになれば、既存LPWAの課題の大半を解決できる」という。
もう1つ、小林氏が「いいタイミング」と見る理由が、ここにきて802.11ahのチップセットやデバイスの供給が始まったことだ。「1年ほど前まではベンダーに聞いても『開発の計画はない』という答えしか返ってこなかったが、すでに米Newracom社がチップセットや評価ボードを供給、その他にも数社が開発に取り組んでいる」という。
さらに、「“いいタイミング”であるからこそ56社に参加していただけた」とし、「今後さらに多くの企業に会員になってもらえるのではないか」と期待を寄せた。
802.11ah推進協議会には56の企業・団体が参加している
小林氏は、802.11ah対応デバイスの開発状況にも触れ、「チップが出てきたことで端末の開発が加速しており、2019年には様々な新しいデバイスが出てくる」とし、Newracom社のチップを用いて開発が進められているUSBデータ通信端末のイメージモックアップを紹介した。
このほか、2019年には台湾Gemtek社がゲートウェイを、同じく台湾のAdvanWISE社がアクセスポイントを発売する予定であり、複数の会社が通信モジュールやUSBデータ通信端末の開発を進めているという。こうした動きを受け、「日本だけでなく、アメリカや中国、シンガポール、台湾でも工場の自動化など、802.11ahの商用化に向けた多くのプロジェクトが進んでいる」そうだ。
802.11ah対応USBデータ通信端末のイメージモックアップ
さらに、来年実施を計画している実証試験に言及。「実験局免許を取得し、トライアルを行い、先行する他のLPWAや無線タグなどとどう共存していくかを明確にしていきたい」とした。
こうした結果を踏まえて「総務省や他の団体と周波数の共用条件を詰めて、920MHz帯を使えるようにしていきたい」と小林氏は意欲を見せた。
2019年に実証試験を行い、実用化を目指す