様々なLPWA関連デバイス/ソリューションが展示された「IoT/AIビジネスカンファレンス」のLPWAゾーン。この秋、大手モバイルキャリア3社のサービスが出揃った「LTE Cat.M1(LTE-M)」対応のデバイスも見ることができた。
京セラのブースでは、「IoTユニット」と「LTE-Mボタン」の2つのLTE Cat.M1対応製品が紹介された。
IoTユニットは、KDDIのLTE-Mサービスに対応したセンサーデバイスだ。70×37×11mm、39gの小型筐体に温度/湿度/気圧/照度/加速度/角速度(ジャイロ)/地磁気の7つのセンサーを内蔵し、見守りや物流システムでの追跡・温度監視、建造物の監視など様々な用途で活躍する。内蔵電池の容量は750mAだが、LTE-Mの省電力性能を生かし、「1日1回程度の通信であれば2カ月の稼働が可能」だという。
LTE-Mボタンは、搭載されているプッシュボタンを押すことで、LTE網経由でクラウドに信号を送り、様々な機能を実現できるデバイスだ。シンプルなコマンドでメッセージングサービスなどとの連携を可能にするAWS IoT 1-Clickを利用できるデバイスとして、ソラコムが「SORACOM LTE-M Button powered by AWS」の名称で10月17日から販売している。LTE-Mボタンを利用すれば、Amazon Dash Buttonのようなワンタッチ発注サービスや機器の遠隔制御などを容易に実現できる。
京セラのブースでは、LTE-Mボタンの「単押」「長押」「二度押し」で
異なるLINEのメッセージをスマートフォンに表示させるデモが披露された
日本でSigfoxの回線サービスを展開している京セラコミュニケーションシステム(KCCS)のブースでは、温湿度/照度/ドア開閉検知/振動検知/磁気センサーとプッシュボタンの6つの機能を搭載する汎用センサーデバイス「Sens’it Discovery」と、プッシュボタンに加えて加速度センサーを装備したプッシュボタンデバイス「SIMPLEPACK_R3」(VALUECARE)が出展された。
さらに、水道検針、灯油残量検知、LPガスメーターの検針、GPSトラッカーなど、用途別のデバイスが紹介され、多様なユースケースが登場してきていることが訴求されていた。
KCCSのブースではデバイスとユースケースの広がりが強くアピールされた
LoRaWANソリューションに力を入れるマクニカネットワークスのブースには、屋内で手軽に設置できるLoRaWANの小型アクセスポイント、プッシュボタンデバイス、開閉センサー、人感センサーなど、多くIoTデバイス/センサーが展示されていた。
「2017年まではLoRaWANをやりたいと言われても、提案できるデバイスが十分に揃っていなかった。しかし2018年に入って、海外ベンダー製品の日本の電波法への対応も進み、いろいろなユースケースに対応できるようになった」と説明員は語った。
マクニカネットワークスのブースに展示されたLoRaWANデバイスやセンサー類
今回のブース展示で注目されるものとして、SigfoxとLoRaWANの測位機能の高度化が挙げられる。
Sigfoxには、基地局の電波を利用することで、GPSを用いずにデバイスの大まかな位置を把握できる「Atlas」と呼ばれる機能がある。例えば、Atlasはすでにルイ・ヴィトンの旅行カバンの追跡サービス用Sigfoxデバイス「Echo」で使われている。さらに、位置情報サービス事業者のHEREと組み、Wi-Fiのロケーション情報を活用して、より高精度な位置把握を可能にする「Atlas Wi-Fi」の提供も計画されている。GPSの消費電力を下げる「Fast-GPS」と呼ばれる技術の導入も進められているという。
LoRaWANのネットワークサーバーを展開するActilityのブースでは、2017年に買収したAbeewayのAGPS(高度化衛星測位)技術を用いたトラッキングデバイス「Micro Tracker」が紹介されていた。
現行のGPSでは、衛星からの電波を受信した後、デバイスで緯度・経度の算出を行う仕組みをとるため、処理に時間がかかり、消費電力も増加する。AbeewayのAGPSは、衛星から取得したデータをサーバーに送って処理して、測位時間の短縮と省電力化を可能にする。Abeeway の測位システムでは前述のAtlas Wi-Fiと同様、公衆Wi-Fiなど、位置が登録されている無線LANアクセスポイントのSSIDで位置を把握する機能も実装されている。
Micro Trackerは、すでにインドで女性が身に着ける小型防犯デバイスとして商用化されている。ブースには、1日に1~2回の位置把握であれば、10年間電池交換なしで利用できるというAbeewayのトラッキングデバイスも展示された。
AGPSを搭載した「Micro Tracker」のデバイス
KCCSモバイルエンジニアリングのブースでは、Sigfox対応センサーデバイス「Sigfoxマルチアダプタ」と、SigfoxやNB-IoT、LoRa、Cat.M1に対応するIoTプラットフォーム「miotinc」(ミオティンク)を展示。さらに、海外ベンダー製のSigfox対応小型GPSトラッカーデバイスも披露されていた。運送用パレットなどに埋め込むことが可能で、来年春から取り扱いを開始するという。
複数のIoT無線を組み合わせ、省電力化やエリア補完を実現今回のブース展示の特色としては、SigfoxやLoRaを他のIoT無線システムと組み合わせて利用するデバイス/システムが多く出展されていたことも挙げられる。
マクニカネットワークスのブースでは、センサーベンダーのワッティーが開発したEnOceanとLoRaWANとの変換ブリッジ「E2L bridge」が目玉として展示されていた。光や振動などで発電するエネルギーハーベスティングを活用したEnOceanでセンサーデータを収集。E2L bridgeでLoRaWANに変換してクラウドに送る製品だ。電池不要のEnOceanをセンサーデバイスに利用することにより、LoRaWANの場合、数年毎に必要となる電池交換の作業が要らなくなる。
EnOceanとLoRaWANの変換ブリッジ「E2L bridge」(左)とEnOceanを利用した温度センサー(右)。
「E2L bridge」の一般公開は今回のカンファレンスが初
ラピスセミコンダクタは、Sigfoxと対干渉性能に優れるIEEE802.15.4kの2つのLPWAに対応する無線LSIのリファレンス・デザイン(試験モジュール)を出展した。
Sigfoxのサービスエリア内はSigfox、エリア外はIEEE802.15.4kを利用することで、都市部以外でも効率的にIoTネットワークの構築が可能になるという。畜産や酪農、林業などのユースケースを想定している。
この試験モジュールは、Sigfox認証や国内電波認証を取得しており、これを用いてPoC用デバイスを開発すれば、すぐにフィールド試験を行うことが可能だ。提供開始は11月中旬。
IoTデバイスベンダーのBraveridgeのブースでは、BLE(Bluetooth Low Energy)対応センサーデバイスのデータを、LTEやLTE-M、NB-IoTに変換してサーバー/クラウドに送信するBLE-LTE/NB-IoT/Cat.M1ルーターが出展されていた。同社では、まずLTEに対応した製品を年内に投入、続いてNB-IoT/Cat.M1対応製品を展開していく。
Braveridgeが開発中のBLEとNB-IoT/Cat.M1に対応するルーター
Braveridgeは、LoRaWANを行政サービスに利用する実証実験を福岡県糸島市と行っている。ブースには、この実験に使われている水位センサーや、バスの運行状況を表示する停留所デバイス、鳥獣捕獲檻センサーなどのLoRaWAN対応センサーデバイスも出展されていた。
これらのデバイスはLoRaWANだけでなく、Bluetoothもサポートしており、例えば①バスに取り付けたBLEのビーコンの信号を停留所のデバイスで受信して位置を把握する、②端末をBluetoothで接続してスマートフォンで管理する、③端末のファームウェアをBluetoothを使って更新するなどの利用がなされているという。
糸島市での実証実験で用いられている各種デバイス。
LoRaWANとともにBluetoothもサポートされている
SigfoxとIEEE802.15.4kをサポートする世界初の無線LSIのリファレンス・デザイン
このほか、STマイクロエレクトロニクスのブースでは、Cat.M1/NB-IoT対応のIoT端末開発キットによるデータ収集のデモが行われた。併せて、LoRaWANやSigfoxの開発キット、Sigfox対応のセキュリティソリューションも展示された。
「開発キットの価格はSigfoxで1万円弱、Cat.M1/NB-IoTは1万円台。手軽に試作機が作れる」(STマイクロエレクトロニクス)という。
今回の展示で異彩を放っていたのが、自動車用品販売大手のオートバックスセブンのブースだ。
ソニーのLPWA「ELTRES」の実証実験に参加する同社は、ELTRESに対応した杖を利用した高齢者向け見守りサービスの実用化を目指している。
オートバックスセブンでは、高齢者との接点のある多様なパートナーと連携して商用化する計画だ。さらに、このサービスで構築したプラットフォームを他分野のサービス事業者に利用してもらうことも計画している。
IoTビジネスの裾野は今、大きく広がりつつあるといえそうだ。