食事の入った箱を搭載したドローンが数分間飛行した後、広場の目的地に着陸すると、スタッフが箱から食事を取り出し、テーブルで待機している家族連れに提供する──。
昨年11月、ホテルやオフィス、劇場などが入る複合施設ウォーターズ竹芝(東京都港区)で、ドローンによるフードデリバリーサービスの実証実験が行われた。
これは、「東京都におけるドローン物流プラットフォーム社会実装プロジェクト」に基づくものだ。ドローンを活用したビジネスモデルを検討し、実証実験を通じて運用上の課題や収益性を検証することを目的とした同プロジェクトには、KDDIやJR東日本、ウェザーニューズ、Terra Drone、日本航空(JAL)が参加している(図表1)。
今年2月には、プロジェクトの一環として、医療用医薬品卸売企業メディセオの新東京ビル(東京都中央区)から聖路加国際病院(同)へ、隅田川に架かる永代橋など3つの大橋を横断しながら、血液製剤などの医薬品をドローンで配送する実証実験も行われた。
血液製剤は、輸送時の温度変化や振動により品質が劣化する可能性があるが、安定的に運べることが確認されたという。
これまでドローンは、離島や山間部など人口が少なく、交通や物流に課題を抱える地域での活用が中心だった。それがここに来て都市部が対象となり始めたのは、今年12月に予定されている「レベル4飛行」解禁を見据えてのことだ。
ドローンの社会実装については、「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が策定した「空の産業革命に向けたロードマップ」の中で、4段階に分けて定義されている(図表2)。
レベル1および2の目視内飛行は飛行範囲が限られるため、機体と操縦者間の通信はWi-Fiで十分対応可能だが、現在のレベル3「無人地帯での目視外飛行(補助者の配置なし)」は遠隔までドローンが自律飛行することから、より広範囲をカバーするLTEに対応したセルラードローンが中心となっている。
そしてレベル4では有人地帯、すなわち都市部上空で補助者なしでの目視外飛行が可能になる。スマートシティでは物流や警備、医療など様々な分野でのドローンの活躍が想定されているが、その実現に一歩近づくことを意味する。
なかでも物流はドライバーや宅配業者の人手不足、再配達によるコスト増加など課題が山積しており、ドローンによる変革への期待が大きい。
ドローン配送によるメリットについて、KDDI子会社でドローン事業を展開するKDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏は「上空150m以下の空域を出発地点から目的地点まで直線距離で飛行することで、時間を短縮することができる」と説明する。渋滞に巻き込まれることがなく、橋を渡って迂回するといった必要もないため、トラックと比べて効率的に配送することが可能だという。
また、ドローンは多くの人にとって今なお目新しい存在だ。食事の配送については、「ドローンが運んでくるという非日常性、到着を待つ間のワクワク感といったエンターテイメント性は重要な価値」であり、結婚式などへの活用も考えられると指摘する。
他方、ドローン配送には人手を要するという課題がある。
現状は出発地点に1人、着陸地点に1人と最低でも2人のスタッフを必要とするが、2人態勢のオペレーションはトラック輸送と比べて人的コストが高い。このため、「まずは輸送単価の高い医薬品などの物資輸送から実用化したい。医薬品はドローン配送の一丁目一番地と考えている」と博野氏は話す。