JAL、KDDI総研、KDDIが今回行った実証実験は、5Gの特徴である「超高速・大容量通信」と「超低遅延通信」の2つの特徴を活かしたものだ。航空機の近くや格納庫などの整備の現場で撮影した高精細映像データを、非常に遅延の少ない状態で遠隔地に送ることで、これまでは実現できなかったような高度な業務支援を実現しようというのが狙いである。
具体的には、整備作業の遠隔支援として「4K映像を用いた整備作業の遠隔業務支援」「8K映像を用いた同一拠点内での整備作業支援」の実証実験を2019年3月に実施。また、これと合わせて、航空機利用客向けサービスの高度化を目的とした「タッチレス搭乗ゲート」の実験についても報道陣向けに公開した。
4K映像を用いた整備作業の遠隔業務支援のデモ
1つめの「4K映像を用いた整備作業の遠隔業務支援」は、航空機近くで整備士が行う作業を、離れた場所にいる指示者が映像で確認し、細かな部品が多く使われている電子部品の解体や組み立ての指示を行うというものだ。
作業現場の様子や部品を撮影した4K映像を、KDDI総研が開発したAR遠隔作業支援システム「VistaFinder Mx」を使って別拠点にいる指示者に伝送。高精細な映像を用いることで複雑な機器のメンテナンスを行うことが可能になるという。
遠隔作業支援のイメージ
現場の作業者は映像を送るとともに音声で報告を行い、遠隔地にいる指示者はそれに対して下写真のように、映像の上に修理箇所を示す赤丸を書き込んだりしながら音声で指示を伝える。今回は、東京・天王洲にあるJAL Innovation Labを作業現場に見立て、指示者を羽田空港近辺に配置して実験を行ったが、その場合、両者のデバイス間の遅延はエンドツーエンドで0.5秒(500ms)で、円滑な指示伝達が可能だったという。
4Kカメラで部品を撮影し(左)、映像を指示者に伝送。指示者はその映像を見ながら報告を聞くことで、
より詳細かつ正確な指示が行える。チェックして欲しいポイントを映像上に赤丸で示したり(右)してわかりやすく伝達できる
なお、KDDI総研 代表取締役所長の中島康之氏によれば、遅延時間の大半を占めるのは通信時間ではなく、映像のエンコード/デコード処理だという。今後、映像処理遅延の短縮に取り組むことで「最終的には100ms程度まで短縮が可能」になる見込みだ。現場と指示者との距離がさらに離れても運用は可能であり、「例えば、羽田から地方空港で行われる整備作業を支援することも可能。将来的には国内と海外との間でも実現したい」と意欲を見せた。