講 師 東芝 |
足立朋子(あだち・ともこ)氏 |
東芝にて無線LANの研究開発に従事。専門は無線通信プロトコル。2001年からIEEE 802.11無線LAN標準化活動に参加、802.11n標準化ではEditorial Panel Member。現在、電子情報通信学会会計理事 |
Q IEEE 802.11azとはどのような規格なのか、概要を教えてください。
足立 11azは、誤差1m以下という高精度な位置推定を可能にするWi-Fi規格です。
IEEE 802.11標準化会合には、標準化活動の新規テーマについて議論するWireless Next Generation Standing Committee(WNG SC)と呼ばれるコミュニティがあります。2014年11月に開催されたWNG SCでインテル、アルバ、シスコ、CSR、マーベル、クアルコムが連名で次世代位置推定技術に関するスタディグループの立ち上げを提案し承認され、翌2015年1月から11azの活動が始まりました。
Q 「次世代」という言葉が使われているということは、Wi-Fiを使った位置推定技術がすでにあるのですか。
足立 現在、Wi-Fiによる位置推定には、①パケットのRSSI(受信信号強度)を用いる方法、②パケットの受信時間差を用いる方法、③Fine Timing Measurement(FTM)を用いる方法の3種類があります。
Q いずれも難しそうな言葉ですが、それぞれどう違うのでしょう。
足立 簡単に説明しますね。一般的に、無線信号は伝搬する際、距離に応じて減衰します。この性質を利用し、周囲に同じような機器があって送信電力も同一であると仮定したうえで、値が小さい場合は距離が離れている、大きい場合は距離が近いと推定するのが、①パケットのRSSIを用いる方法です。
また、無線信号は距離が長ければ、それだけ空間を伝搬する時間も長くなります。そこで、②パケットの受信時間差を用いる方法では、ある端末から送信されたフレームが複数のアクセスポイント(AP)で観測されたときの受信時刻の差から位置を推定します。
③のFTMも伝搬による遅延を利用しますが、端末は位置が明確なAPから、そのAPにおける観測対象フレームの送受信時刻も取得することで、時間同期したうえでのより正確な伝搬遅延を求めることができ、それを複数のAPに実施することで三辺測量※1の要領から、位置推定の精度を高めることができます。実際、誤差はRSSIが5~10m以内、受信時間差が3~5m以内であるのに対し、FTMは1~2mとより高い精度を実現しています(図表1)。
図表1 Wi-Fiの位置推定技術の変遷
※1 三辺測量
既知点を含む測点により三角形を構成し、三角形のすべての辺の長さを測定することで、測点の水平位置を決定する測量方法