森ビルのローカル5G構想 新しい制御で新しい街、新しいビル、新しい住居を

ローカル5Gに期待を寄せるユーザー企業は多い。大手デベロッパー、森ビルの100%子会社で、ビル制御システムなどを担当するイーヒルズ 取締役の渡部宗一氏もその1人だ。ただし、同氏が最も評価しているのは5Gの3つの大きな特徴である超高速、超低遅延、同時多数接続のいずれでもない。

「私は元々セキュリティの観点からローカル5Gに着目した」

技術研究組合 制御システムセキュリティセンター(CSSC)の理事を務めるなど、産業用制御システムのセキュリティ向上に長年にわたり取り組んできた渡部氏。

ビルや工場などのIoT化を推し進めるうえでは、制御システムのセキュリティ確保が大前提となるが、ローカル5Gが重要な役割を果たすと見る。

イーヒルズ 取締役 渡部宗一氏
イーヒルズ 取締役 渡部宗一氏

サルでも分かるセキュリティを「Wi-Fiはセキュリティ上、決して問題のある通信方式ではないが、それはきちんと対策できたときの話。Wi-Fiのセキュリティをしっかり保ちながら運用するのは相当しんどい」

渡部氏は、現在最も普及している自営用無線通信であるWi-Fiの課題をこう指摘する。

言うまでもなく、Wi-Fiを導入している企業は多いが、その大半がパスワードのみで認証を行っているはずだ。パスワードが分かれば、誰でもアクセスできてしまう。森ビルは数多くのオフィスビルを運営するが、その経験からすると「特に外資系企業の場合、業務にWi-Fiを使わせないことが多い」という。

もちろん電子証明書を活用すれば、Wi-Fiでも強固なセキュリティを担保できる。しかし問題はその運用コストである。「例えば、工場なども本当はWi-Fiを使いたい。しかし、工場内の様々なIoT機器すべてに証明書を入れるのか。機器が故障すれば部品を交換するが、そのときに証明書はどうするのか。セキュリティを確保するのに、大変な手間がかかる」

渡部氏は「もっと簡単にセキュリティを確保できる無線通信はないのか」と探してきたが、そこに登場したのがローカル5Gだった。

「ローカル5Gの何が優れているかというと、SIMだけでセキュリティをコントロールできること。ネットワークスライシングにより、通信を完全に切り分けることもできる。運用が一気に楽になると考え、ローカル5Gの導入を検討している」

SIMによる認証は極めてセキュリティ強度が高く、しかもシステム管理者はSIM単位で簡単にアクセスを制御できるなど管理性も高い。

「言葉は悪いが、私は『サルでも分かるセキュリティにしてくれ』とよく言っている」。SIMによるコントロールであれば、誰でも簡単かつ楽に、強固なセキュリティを実現できると期待しているのだ。

5G基地局はまだ高価なため、イーヒルズではまずプライベートLTEを使ってトライアルを始める。「SIMによるコントロールは実際どんなものか。2年ぐらい実証して運用上の問題点を洗い出し、それからローカル5Gに移行できればと考えている」

第1ステップとして、イーヒルズのオフィスに1.9GHz帯を用いたプライベートLTE規格であるsXGPの基地局を導入する。そして次のステップとして、今年夏ごろに虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー内にある共同オフィスにsXGPを導入し、テナント企業に利用してもらうことを計画しているという。

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