「NVIDIA テレコムウェビナー 2022」の最初のセッションで取り上げられたのが、通信事業者の新たな事業領域として期待されるMEC(Multi-access Edge Computing)である。
「MEC ビジネス概要とスケールのためのワークロード」と題したこのセッションを担当したエヌビディア テレコム営業部MECデベロッパーリレーションマネージャーの橋本祐樹氏は、まずMECを「通信事業者による地域向けクラウド」と説明した。MECを通信事業者のビジネス視点から捉えたもので、これが「人手不足やサプライチェーンの適正化、リモートワークの推進といった地域の課題と、その解決策となるワークロード(顧客向けアプリケーション) との橋渡しを担う」のだという。
橋本氏は、MECの具体像を「高密度に集約可能な環境にGPUによるコンピューティングリソースをインテグレーションし、閉域網で高セキュリティを担保、キャリアグレードの信頼性あるネットワークでデータ処理を行うもの」と述べ、その重要な要素として「ネットワークを熟知した通信事業者がネットワークとコンピューティングリソースの双方を提供している」点を挙げた。
さらに「MECはAIの推論、VRレンダリングといった上り/下りともに広帯域なトラフィックを要するワークロードに対し、単一の通信事業者がラストワンマイルまで、エンド・ツー・エンドでサービスを提供しているからこそ実現できるサービスだ」としたうえで、地域におけるコンピューティングリソースの設置場所として「地域の通信事業者の局舎ビルが最も有力な選択肢になる」という見方を示した。
橋本氏は、「こうした地域のデータセンター(MEC)で推論・解析を行うことは“データの地産地消”であり、地方創生において重要な役割を担う」と強調。この「MECによるデータの地産地消」には、大きく4つの利点があるとした。
1つめが、単一キャリアが展開する閉域網内と、データ自体の所在地が明確であり、地域の外に出ないことへの安心感。
2つめが、データセンターの運用も含めて、すべてを地域の通信事業者で完結できることによる経済性、安定性だ。
3つめは、これまで利用者が個別にPCで行っていた処理をMECへ集約することで、効率的でグリーンな環境を整備できること。AIによる推論やグラフィックスの描画・レンダリングといった環境を企業が個別に構築すると、必然的に消費電力は増大する。コンピューティングリソースの共同利用により、省エネ効果が期待できるという。
「地域単位で見た場合、GPUを集約的に高密度で設計し、通信事業者がそれをマネージドすることで、国策として現在進められているカーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略を実現する鍵になる」と橋本氏は語った。
4つめが地域それぞれで必要とされる課題解決のためのワークロードに特化した効率的なコンピューティングリソースの設定・配置が可能になることである。
このように橋本氏はMECの4つの利点を整理し、通信事業者が取り組む意義を次のように述べた。
「データを預けるユーザーから見ると、通信事業者は安心安全な顔の見える“地域のベストパートナー”といえる。従来、“つなぐこと”をミッションとしてきた通信事業者に、デリバリーやオンサイト対応などのアセットを加えることでMECの優位性が実現され、パブリッククラウドとの差別化が可能になる」
例えば、AIの企画・開発支援では、通信事業者のデータサイエンティストのノウハウを活かすことができる。
また、地域のシステムインテグレーターと連携しながら販売チャネルを構築できることや、すでに通信事業で提供している24時間365日の保守・サポート体制も大きな強みとなるはずだ。
これらの強みを活かすことで「通信事業者だからこそできる地域DX」が提供できるという。