AWSが世界規模でクラウドインフラを展開していることは周知の通りだ。2026年4月時点で、グローバルのAWSリージョンは39に上り、今後も増設が計画されている。
ただし、AI需要が拡大するなか、求められるのはリージョンの増設だけではない。大規模な学習や推論を担うリージョンを基礎としながら、要件に応じてより利用場所に近い環境へと実行基盤を広げていく必要がある。加えて、そのリージョン自体も、需要増に応じて拡張しやすい設計でなければならない。
AIの実行環境をクラウドからオンプレミス、エッジまで連続的に捉え、低遅延・効率的な処理を行おうとするこうした考え方は「AI Continuum」と呼ばれ、世界的な潮流になっている。
AWSはこれを実現するために多方面で技術革新を進めているが、特にネットワーク技術と提供形態の面で新しい取り組みが登場している。
AWSは、顧客が必要な場所でAIを実行できる環境を実現するべく、リージョンからエッジに至るあらゆる場所で、同じインフラやサービス、APIなどのサービスを一貫して利用できるようにするためのインフラストラクチャソリューションを整えている(図表1)。その土台となるのがリージョン自体の拡張性だ。

AWSのリージョンはデータセンターが集積された物理的ロケーションを指し、各リージョンは複数のアベイラビリティゾーン(以下、AZ)で構成される。各AZは1つ以上の独立したデータセンターからなる。AZは冗長化された電力源、ネットワーク、接続機能を具備している。
リージョンの拡張性を高めるにはAZの増設や拡張が必要だが、AZには立地上の制約がある。災害や障害の同時発生を避けるため、AZ間は十分な距離を置いて分散配置する必要があると同時に、リアルタイムのデータレプリケーションが可能となる遅延要件を満たさなければならない。この相反する条件をどう両立させるかが重要だ。

そこでAWSはホローコアファイバー(Hollow Core Fiber:HCF)技術に着目した。ホローコアファイバーとは、光ファイバーのコアをシリカから中空構造に置き換えたもので、従来のシングルモードファイバー(SMF)より低遅延で信号を伝送できることが大きな特徴だ。アマゾン ウェブサービス ジャパン 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長の瀧澤与一氏は、「ホローコアファイバーによって、AZやデータセンター設計の自由度が広がる」と説明する。
AWSではAZの所在地を公表していないが、瀧澤氏によると例えば東京リージョンでは、AZを“関東エリア”に分散配置しているという。冗長性と可用性を両立する範囲が関東圏というわけだが、AZを拡張しようとしても、データセンターの適地を確保するのが難しくなっている。こうした立地制約は日本に限らず、世界的な課題だ。
この制約を緩和するのがホローコアファイバーだ。一般的なSMFの屈折率は1.44であり、光がファイバー内を伝わるのに1m当たり約5ナノ秒、1km当たり約5マイクロ秒を要する。一方、ホローコアファイバーはコアが中空であるため屈折率は1に近づき、遅延特性が改善する。具体的には、従来のSMFに比べて遅延は30%改善し、AZ間の距離は50% 伸ばせるという(図表2)。

これにより、高可用性を保ちながらAZ間の物理的距離を拡張できるようになる。結果として、AZを建設できる対象エリアの面積は2.25倍に広がり、各リージョン内におけるデータセンターの物理的配置要件の自由度が高まる(図表3)。

ホローコアファイバーは、DARPA(米国防高等研究計画局)などの機関で25年以上にわたって研究されてきた技術である。AWSは2024年には、ホローコアファイバーやマルチコアファイバーなどの物理的イノベーションをネットワークのスケールを支える技術として利用していることを明らかにしていた。
AWSがホローコアファイバーを実装できた背景の1つには、AWSが自らハードウェアを設計・開発に関与する体制があるという。瀧澤氏は「ハードの開発においては、顧客ニーズから逆算して必要な技術を取り込んでいく考え方を重視している」と語る。ホローコアファイバーも、計算量の増大や低遅延というニーズを満たすための現実的な手段として採用された。
こうした文脈で、AWSはマルチコアファイバーの開発にも取り組んでいる。1本のファイバーの中に複数のコアを収めることで、AZ間・データセンター間接続の大容量化を図るのがマルチコアファイバーだ。「AZ間接続の本数は一般に想像されるよりはるかに多い」(瀧澤氏)ため、収容密度を高めるにはケーブル1本あたりの伝送容量を増やすことが効果的だ。
これらのファイバー技術は、AWSがAI Continuumを地理的・容量的な制約から解き放って実現させるための、物理インフラ側からのアプローチと言えるだろう。