生成AIの爆発的普及は、通信ネットワーク業界にも新たな需要を生み出した。「GPU間通信」だ。この領域で求められる通信性能は、従来のネットワークとは桁違いに厳しい。広帯域化/低遅延化/高信頼性化のすべてで極端なレベルの性能が必要だ。
そのため、GPU間通信には長らく専用規格が使われてきた。InfiniBandとNVLinkがその代表例だ。どちらもエヌビディアが独占的に供給している技術だが、AIデータセンターの運用現場では、これを慣れ親しんだイーサネットで実現したいというニーズが根強い。
この期待に応えて、InfiniBandを代替する技術として登場したのが「Ultra Ethernet」だ。2023年に業界団体が設立され、2025年に初期仕様を公開した。
そして、2025年末に“第2波”が届いた。データセンターインフラのオープン化を推進するOpen Compute Project(OCP)において、NVLinkの置き換えを狙う「ESUN(Ethernet for Scale-Up Networking、イーサン)」の標準化が始動したのだ。創設メンバーにはAMD、アリスタネットワークス、ARM、ブロードコム、シスコシステムズ、HPE Networking、マーベル、メタ、マイクロソフト、OpenAI、オラクル、そしてエヌビディアが名を連ねる。
AIインフラ市場に選択の自由とコスト効率をもたらすこと──。
アリスタネットワークスジャパン 副社長 兼 技術本部長の兵頭弘一氏は、ESUNの狙いをこう話す。これはUltra Ethernetにも共通するものであり、「これまではスケールアウトネットワークに注目が集まっていたため、それをターゲットにUltra Ethernetの標準化が先行した。一方、ESUNはスケールアップ、つまりラック内のGPU間通信がターゲットだ」。

AIデータセンターでは、図表1の4種類のネットワークが使われる。「フロントエンド」は従来からあるネットワークで、CPUやストレージを外部のユーザー等とつなぐ。
図表1 AI/HPCシステムを構成する4つのネットワーク

「スケールアウト」はGPUサーバーのラック間を接続して大規模なAIクラスターを作るためのもので、バックエンドネットワークとも呼ばれる。GPU間通信では、パケットロスが発生しない“ロスレス”通信を行う必要があり、InfiniBandはその専用規格だ。イーサネットでこれを代替する技術として開発されたのがUltra Ethernetである。
一方、ESUNがターゲットとするのは、「スケールアップ」ネットワークである。基本的にはラック内、場合によっては隣接するラック間のGPU間通信を担う。スケールアウトと同様、広帯域・低遅延、ロスレス通信が必須となるため、パケットロスの発生を前提としたイーサネットでは対応できず、これまではロスレス通信を行うための専用規格であるNVLinkが使われてきた。
だが、特定ベンダーへの依存度が高まることは別の問題を生む。選択の自由度とコストの柔軟性が失われることだ。また、ドメインごとに使用技術が異なれば、設計、構築、運用監視の複雑性が増し、学習コストも増大する。Ultra EthernetおよびESUNによってAIインフラ全体をイーサネット技術でカバーできれば、これらの課題を一掃できる可能性がある。
なお、4つめの「スケールアクロス」は最も新しい概念で、複数拠点を接続してAIクラスターを実現するもの。こちらも、データセンター分散化の進展とともに今後注目が集まりそうだ。