量子アニーリングが6G時代を支える 通信品質推定の高速・高精度化に貢献

次世代の計算機として注目を集めている量子コンピューター。複雑な計算を高速処理することが可能で、その計算速度は従来のコンピューターより1億倍早いとも言われている。2019年にGoogleが開発した量子コンピューターは、世界最速(当時)のスーパーコンピューターでも1万年かかる計算を、200秒で解くことに成功した。

量子コンピューターは大きく分けて、「ゲート方式」と「アニーリング方式」の2つに分類される。ゲート方式は、量子状態の素子の動きや組み合わせから計算回路を作成して問題を解くアプローチで、汎用的な計算用途に適している。前述したGoogleの量子コンピューターは、ゲート方式に該当する。

一方、アニーリング方式は、数ある選択肢の中から最適解を導き出す「組み合わせ最適化問題」に特化している。カナダのD-Wave Systemsが2011年に量子アニーリングマシンを商用化し、世間に知られるようになった。

量子アニーリングは、物流業など、様々な領域で活用され始めている。例えば凸版印刷は、グループ会社のトッパン・コスモが提供する物流業向け業務効率化ツール「MITATE(ミタテ)」に量子アニーリングを適用し、計画立案機能を拡張。配送計画における業務負担削減や配送計画の精度向上などが主な目的だ。

東北大学は、津波などの災害発生時の最適避難経路を算出する量子アニーリングマシンの研究開発に取り組んでいる。

そんな量子アニーリングを活用して無線通信品質の最適化に挑むのが、NTTと東京電機大学だ。

通信環境が複雑化・大規模化するなか、無線システムの設計にあたり、電波伝搬シミュレーションの重要性が日に日に増してきている。

また、Beyond 5G/6G時代には、自動運転や遠隔医療、ロボットの遠隔操作などの本格化が期待されている。これらのユースケースはわずかな遅れが命取りになるため、低遅延かつ安定した通信環境の整備が不可欠だ。「そのためには、状況の変化に即応できる高速で高精度な電波伝搬シミュレーションも必要となる」とNTTアクセスサービスシステム研究所 無線アクセスプロジェクト 山田渉氏は指摘する。

NTTアクセスサービス システム研究所 無線アクセスプロジェクト 山田渉氏

NTTアクセスサービス システム研究所 無線アクセスプロジェクト 山田渉氏

従来のシミュレーション方法は、送信点から放射される電波を光線に見立て、構造物との反射を繰り返して受信点に到達する軌跡を幾何光学的に導出する「レイトレース法」が一般的だ。だが、「この手法では構造物の数の増加に比例して処理量も増えるため、計算には膨大な時間がかかる」(山田氏)という。

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