「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2024」の3日目となる5月31日、「高専ワイヤレステックコンテスト(WiCON)2023」の成果発表会が開催され、予選を勝ち抜き本選大会に進出したチームのうち5チームが、その成果を発表した。
WiCONとは、ワイヤレス人材の育成を目的とし、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)と総務省が共催する全国の高等専門学校を対象とした技術コンテスト。応募から23チームが採択され、最大150万円の費用が支給される。各チームは自治体や地元企業等と連携しながら、約9カ月間の技術実証に取り組む。
そのうち、「ワイヤレス基礎技術部門」として唯一登場したのが、呉工業高等専門学校のTeam RS5.0(Realize Society 5.0)だ。その「Beyond5Gへの利活用を目的とした100GHz帯低雑音直接発振器と電力合成による高出力化の実現」は、今後のBeyond 5Gで有望視される300GHz帯の利用を視野に捉えた研究。
300GHz帯というサブミリ波帯の信号を回路から直接発振しようとすると、雑音の発生により発振が不安定になる。また、出力を上げて通信距離を伸ばそうとしても、雑音に阻まれてしまう。つまり、実用に耐えうる安定性と通信距離をどう確保するかが問題となるが、同研究では雑音の少ない100GHz帯の発振器と、高出力を実現する電力分配・合成器を設計・製作し、増幅後の100GHz帯の信号を3逓倍(周波数を3倍に変換して出力)し300GHz帯電波を得ることを試みた。
その結果、計算上93%の電力合成効率、200mW超の発振電力を得ることができ、通信距離は従来の4倍となる1kmを達成できる見込みという。
通信事業者らはBeyond 5Gを見据えた研究開発を盛んに行っている。この研究はそれらを追いかける、高いレベルのチャレンジと言えるだろう。
地域課題を解決する電波利用のアイデアを生み出すこともWiCONの狙いの1つだ。「ワイヤレス利活用部門」には、各校が所在する地域が目下直面している問題をクリアしようとする意欲的な取り組みが集まった。
その1つ、大島商船高等専門学校のサザンセト・オールスターズによる「帰ってきた大島丸!LPWAとWi-Fiによる海上からの安否ネットワーク」は、離島・沿岸部での災害時における情報伝達の方法を開発する取り組みだ。
瀬戸内海に浮かぶ周防大島に位置する同校は、この地理的条件を背景に2019年度から研究を行ってきた。従来は専用端末を利用する構成だったが、2023年度は導入の容易なスマートフォンを被災者用端末として採用。発災後、公衆通信網が遮断された場合にも、被災者が安否情報の入力・確認と行政情報の閲覧ができるシステムを開発した。
システムのポイントは4つある。まず、基地局として同校練習船「大島丸」を利用すること。大島丸はNTTドコモと災害通信協定を結んでおり、災害時には衛星を介して外部との通信を行える。次に、陸上の状態にかかわらず通信を行うため、海上中継局となるブイを製作すること。3つめはLPWAとWi-Fiの利用だ。基地局と中継局との通信を、LPWAの1つであり規格上25kmの通信が可能なWi-SUN FANで行い、中継局と被災者端末間の通信にWi-Fiを用いる。そして4つめが輻輳の発生を抑止するデュプリケーションサーバーの導入だ。
このような構成により、災害時でも海上と双方向の通信を確立させ、行政情報の伝達と安否情報の集約が可能であることを実証した。さらに、この開発は沿岸部を想定したものだが、陸上中継局を作成することでそれ以外の地域もカバーできたとのことだ。
同校チームは、このシステムを沿岸部の大規模災害が頻発する東南アジア等の諸外国に輸出する構想を持っているという。地域課題の解決が、地球規模の問題を解くことに繋がるということを示す好事例だ。
成果発表会の模様は、6月24日まで「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2024」公式Webサイトで全編がオンデマンド配信される。ぜひ、高専生の柔軟な発想と真摯な取り組みの成果をご覧になってほしい。