――いよいよ5Gの商用サービスがスタートしましたが、今どんな感慨をお持ちですか。
須永 「今年は分岐点だった」と言うことができると思います。Mobile World Congressが今年も2月にバルセロナで開催されましたが、今回から「MWC」という名称に変わりました。「モバイル」という言葉にハイライトすることが、ふさわしくなくなったから、イベント名を変えたのだと私たちは理解しています。
これは、Consumer Electronics Showが「CES」と名前を変えたのと同じ流れですよね。
――かつて家電業界の見本市だったCESは、今では家電業界の枠を超え、IoTやMaaSなども包含した展示会へと変貌しています。モバイル業界にも同様の変化が起こることを、MWCの名称変更は象徴しているわけですね。
須永 私どものCEOであるスティーブ・モレンコフは2017年のCESで、「5Gis the new electricity」(5Gは新しい電気)という言い方をしています。4Gとはまったく違ったユースケースを実現できるのが5Gです。
「では、5Gのユースケースとは何ですか」と必ず聞かれるのですが、順番としてはまず、eMBBによるスマートフォンやコンピューティングデバイスでの5G体験になると思います。クアルコムは今年までは、eMBBをきちんと実現できる環境を用意することにフォーカスしてきました。
クアルコムをはじめ、業界が一丸となって、eMBBからの広がりを具体的な事例をもって示していくのが、これからの取り組みだと思っています。
――5Gは、eMBB(超高速大容量)、URLLC(超低遅延・高信頼)、mMTC(多数同時接続)という3つのユースケースをターゲットにしていますが、当面はeMBBが中心になるのですね。
須永 クアルコムを含む業界各社は2017年、「5G NR(New Radio)の標準化を1年前倒しします」と共同で表明しました。
実はその際、「eMBBをターゲットに前倒しします」という言い方をしています。超高速モバイルブロードバンドは、幅広い層に最も早くリーチできるユースケースだからです。
これに則って、クアルコムはリファレンスデザインだったり、mmWave(ミリ波)とSub-6GHz帯(サブ6)の両方に対応したアンテナモジュールだったり、eMBBの準備を着々と進めてきました。
そしてMWC 2019では、世界中の通信事業者や端末メーカーの方をクアルコムブースにお招きして、「5G is here」というイベントを開き、“有言実行”で皆様に5Gをお披露目したのです。
シリコンなどの部品代の低減は、圧倒的なスケールでしか成し得ないところがあります。そのためにはスマートフォンやコンピューティングデバイスが最適です。最初にこうしたボリュームが出るユースケースをきちんと立ち上げ、その後に続くURLLCやmMTCといったユースケースに対して、経済的に合理性のある価格で提供できる環境を整えていくことが重要なのです。
その意味でも、前倒ししてeMBBから先に5Gを始めたことには、大きな意義があったと思っています。
――クアルコムの第1世代の5Gチップセット「Snapdragon X50」を搭載した端末は、2019年中に20の通信事業者から30種類以上発売されるとアナウンスされています。LTEのときと比べると、はるかに早い立ち上がりです。
須永 LTEは2事業者、3端末で始まりましたから、非常に立ち上がりが早くなっています。しかも、Snapdragonを搭載した5Gスマートフォンは、すでに4Gのプレミアム端末と遜色ないフォームファクターや消費電力を達成できています。