韓国「5G+戦略」の実像――スタートダッシュで世界ICTの先頭目指す

韓国では5Gの早期開始と活性化を目指し、国を挙げて準備を進めてきた。そのため他国に先駆け、多様な分野で試験環境ではなく実装レベルでのユースケースが展開されていることが大きな特徴である。

まず、2018年12月からモバイルルーターベースで限定的な法人向け商用サービスが開始された。コンシューマー向け5Gサービスについては、米国を出し抜く形でSKテレコム、KT、LG U+の通信キャリア3社が4月3日深夜、一斉に世界初のサービス開始を宣言した。「世界初」のタイトル獲得をめぐる国内キャリア3社間での消耗戦を避けるため、政府が間に入り、3社が揃って商用サービスを開始する段取りまで半年以上前に決めるという念の入れようであった。

このように、韓国が世界初の5G開始に対して並々ならぬこだわりを持ってきた背景について、まず考えてみたい。

韓国が短期間のうちにICT最先進国となった大きな要因は、1990年代半ば、世界に先んじる形で国策としてブロードバンド網整備とCDMA方式移動通信サービス導入を進めたことである。

韓国が世界ICT分野で今後も主導権を握るためには、ブロードバンドとCDMAに続き、世界初の5G開始が“第3の重要なマイルストーン”と捉えられている。現在の文在寅政権が成長戦略として進める第4次産業革命では、あらゆるICT活用新サービスを5Gに乗せて提供する計画であり、基本インフラとしての5Gの全国整備を急いでいる。

通信業界でも5G本格化を急ぐ事情がある。歴代政権による通信料金引き下げ政策が強化されている韓国では、通信ビジネスは早くから頭打ちとなっており、キャリアは早くから通信ビジネス以外の新領域ビジネス開拓に力を入れてきた。5Gでは従来以上に広範囲な業種との連携が期待できるため、キャリア3社は5Gの早期本格化に全力を注いでいる。

5Gマーケティングに力を入れるLG U+代理店(筆者撮影)
5Gマーケティングに力を入れるLG U+代理店(筆者撮影)

公共分野から5G導入韓国政府の5G戦略の概要を紹介する。5G商用化時点までは、ネットワークをスムーズに構築するための制度導入や規制緩和が進められた。5Gネットワーク設備共用・共同構築促進に向けた制度改正、5G基地局装置購入費控除のための税制改正、5G活用新サービス開発を見据えた規制サンドボックス(現行法の規制を一時的に止め、特区内で新技術を実証できる制度)導入などの制度整備が2018年までに矢継ぎ早に実施された。

今年4月の5G本格商用化を契機として、政府戦略も5Gの社会実装型に切り替わった。関連産業の集中育成と5G活用サービスの実装を進める政府横断の「5G+戦略」が2019年4月に発表された(図表1)。5Gネットワークの全国整備は、2022年までに完了する計画。「5G+戦略」では2022年までに官民合わせて30兆ウォン(約3兆円)以上を投じる。

図表1 5G+戦略の内容
図表1 5G+戦略の内容

戦略5サービスでは、2025年までに政府が民間コンソーシアムを選定する方式で、図表2のようなサービスが順次計画的に導入される。

図表2 2025年までに実装が進められる5G活用戦略5サービスの内容
図表2 2025年までに実装が進められる5G活用戦略5サービスの内容

また、戦略5サービスとは別に、「5G+戦略」を通じて公共サービス分野から率先して5G導入を図る方針であり、教育、農業、医療等の分野で2020年から5Gを活用した公共サービスが実装されることになっている(図表3)。

図表3 5Gが導入される公共サービス分野
図表3 5Gが導入される公共サービス分野

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