本稿ではCOVID-19の感染拡大による通信業界への影響および、5G時代の到来を見据えて通信事業者が取るべき戦略・アクションについて考察する。
1.COVID-19による通信業界への影響COVID-19の感染拡大による経済活動の停滞や景気後退が予想されているが、通信業界への影響は他業界よりも小さかったことが直近の株価動向より見て取れる(図表1)。
図表1 日本国内におけるコロナ発生後の、業種別時価総額の変動
その要因として、テレワークの飛躍的な普及などに伴うネットワークトラフィック量の増加が挙げられる。また、遠隔診療やオンライン教育といったサービスニーズ向上への期待感も株価を下支えした要因と考えられ、各通信事業者はその期待に応えることができるか否かが問われている。
足元で固定無線アクセス(FWA)の需要が高まる一方、店頭での2020年4-5月新規端末販売台数は同3月比で6~7割減になるだろうとアクセンチュアでは予想している。
加えて、帝国データバンクの予測では2020年の中小企業の倒産件数は1万件を超える見込みで、中小企業を対象にした通信事業の減収が懸念されている。
ただ、COVID-19の影響として懸念されている既存通信事業の減収は、COVID-19以前から直面していた通信業界の構造的課題でもある。
2.COVID-19以前からの通信業界の構造的課題通信事業者の主な収益源の一つである固定通信市場は停滞期に入っており、通信インフラを提供する既存事業は限界点に来ていると言えよう。また、国内市場ではMNO/MVNOの価格破壊戦略を取った新規市場参入により、既存通信事業者のシェア低下やARPU(ユーザー1人あたりの平均売上金額)の減少が想定される。MMD研究所の調査データによると、2020年度3月時点で、MVNOのシェアは14.0%まで拡大している。
これまで通信事業者が向き合ってきた、「固定通信市場の停滞」と「新規プレイヤー参入による競争環境の激化」がもたらす既存の通信事業の減収という業界課題への対応は、COVID-19の影響を受けて、より一層重要性が高まったといえる。各通信事業者は、伸び悩む既存B2B通信事業戦略の模索と同時に、新たな収益源となる事業モデルへの変革が求められている。