5GでIP映像伝送は産業全体へ 建設現場や災害復旧現場で活用進む

「ようやくIP化の機運が高まってきた。IPによる映像伝送が市民権を獲得しつつあることを実感している」。こう話すのは、ソニーマーケティング B2Bプロダクツ&ソリューション本部 B2Bビジネス部 ライブソリューション企画MK課 統括課長の塚本亮輔氏だ。

同社は2014年頃から、IPベースの映像制作・伝送ソリューションの開発・販売を手掛けてきた。放送業界では長年、同軸ケーブルを用いた「SDI(Serial Digital Interface)」方式による映像伝送が主流だったが、「最近は設備更新の半数以上がIP化を前提としている」という。

放送業界でIP移行が進んでいる理由は大きく3点ある。

1つめが、4K/8Kなど映像の高解像度化だ。

SDI方式は1本の同軸ケーブルに1本の映像信号しか流れないため、大容量の4K/8K映像を伝送するにはケーブルを何本も束ねなければならず、配線が複雑になるといった課題がある。これに対し、映像信号をIPパケットに変換しIPネットワークで送るIP伝送は、技術の進化により、高解像度映像も効率的に送ることが可能だ。

2つめが、設備投資にかかるコストの削減である。

スマートフォンやインターネットコンテンツの普及を背景にテレビ離れが加速し、放送局の経営環境は厳しさを増している。IP化によって設備の集約やリソース共有を前提とした全体最適での設備検討を行うことで、コストを抑えながら設備構築を行いたいというニーズが高まっている。

3つめに、「リモートプロダクション」の広がりだ。

放送局のスタジオと中継現場をネットワークでつなぎ、番組制作はスタジオで行うリモートプロダクションは、中継車で専用機材を現地まで運び込み、多くのスタッフが現地でオペレーションを行う従来の番組制作と比べてコストが抑えられることから注目が集まっている。

欧米では日本よりも早く、放送システムのIP化が進んできた。4月中旬、世界最大の映像・放送機器展「NAB Show 2023」が米ラスベガスで開催されたが、「出展企業の話を聞くと、『もはやIPは当たり前だよね』という雰囲気だった」(塚本氏)という。

こうした中でソニーマーケティングは、映像制作・伝送ソリューション「Networked Live」を展開している。

図表1 「Networked Live」の概要

図表1 「Networked Live」の概要

Networked Liveは、カメラやスイッチャーなどオンプレミスの制作機器と、制作システムやメディアストレージなどクラウド上の制作リソースをハイブリッドに活用することで、規模や場所を問わず、ライブ制作の環境を構築可能にする。

「我々はライブの映像制作において、高画質・高圧縮・低遅延の3点にこだわっている」と塚本氏は述べる。特にリモートプロダクションの場合、スタジオから遠隔の中継現場にあるカメラなどの機材を制御するには、現地の映像をリアルタイムにモニタリングする必要があり、低遅延が重要な要素となる。

そこで低遅延を実現するためのキーデバイスとしてメディアエッジプロセッサー「NXL-ME80」を開発し、NAB Show 2023にて発表した。動画圧縮規格H.265をベースにソニーが独自開発したQoS技術を採用し、ネットワークの状況に合わせてパケット再送や前方誤り訂正、最適レート制御といった機能を統合制御することで、4K映像でも0.033秒という超低遅延を実現するという。

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