金融や鉄道、放送、通信などの社会インフラが正確に稼働するうえで重要な役割を担っているのが、時刻同期だ。
一般的にネットワークにつながったデバイスや機器が持つ時刻情報は、GPSや準天頂衛星といったGNSS(全球測位衛星システム)から配信されるUTC(協定世界時)に合わせることで、マイクロ秒オーダーあるいはナノ秒オーダーの正確性を実現している。
しかし、GNSSによる時刻同期には課題もある。
GNSS衛星は高度約2万kmと高い軌道を周回するため、地表には微弱な電波信号しか届かず、ジャミング(電波妨害)に弱い。また、GNSS信号は広く誰でも利用できるようにする目的から暗号化されておらず、仕様も公開されているので、偽装信号を容易に生成することができる。最近は偽装信号を発信する装置が低廉化しており、数千円程度で入手することが可能だ。
このため、海外ではGNSSの脆弱性を狙ったジャミングやスプーフィング(なりすまし)が数多く発生している。
よく知られているのが、「ポーランドなりすまし事件」だ。2017年9月28日、ポーランドコンベンションセンターで開催されていたGNSSの国際会議「ION GNSS+2017」の会場で、何者かが衛星になりすました疑似信号をGPSに混入させたことで、参加者の携帯電話の日付や現在地が改ざんされ、テキストメッセージや電子メールが使えなくなった。
また、世界各地の空港では管制システムに対するGPS妨害が多発している。30都市の空港を対象にした調査によると、2016~2018年の2年間で発生件数は36万件余りにのぼるという。