9割の端末が100Gbps達成 テラヘルツ帯で高速大容量化技術をシミュレート

6Gの規格は何も決定されていませんが、通信の高速化、大容量化は必ず行われます。いくつかの方法がありますが、現在の5Gでも28GHzの「ミリ波」や、Sub6と呼ばれる3.7、4.5GHzという従来よりも高い周波数のバンドが使われているように、より高い周波数を使って、大きな帯域を割り当てるという方法があります。

低い周波数は世界的にも逼迫状態にあり、100GHzから上の「テラヘルツ帯」(注:サブテラヘルツ帯と呼ぶこともある)の利用は、多くの事業者やメーカーが研究中です。

NTTドコモ R&Dイノベーション本部 6G-IOWN推進部 無線技術担当 立石貴一氏

5Gの技術を高度化

テラヘルツ帯の電波の性質は光に近く、メガヘルツ帯の電波のように遠くや物陰に飛ばすことはできなくなります。しかし波長が短くなるため、アンテナも小さくなり、スマートアンテナ(フェーズドアレーアンテナ)の指向性が高くなる、基地局を小型化しやすいといったメリットがあります。

このことからサービスエリアの小さな基地局を大量に配置するマイクロセルを使います。セルサイズが小さくなることで、1つの基地局を同時に使うユーザー数を減らすことが可能になり、狭い範囲に大量の基地局を使うことで同時に多数のユーザーをカバーすることも可能になります。

このとき、基地局は、5Gで使われているMIMO(Multi Input Multi Output)※1を強化して利用することをNTTドコモでは考えています。5Gでは、Massive MIMOといい、多数のアンテナを基地局に装備し、複数の経路で端末と通信します。アンテナを小型化できるということは、逆にいうと同じ大きさの中により多くのアンテナ素子を入れることができることになります。

※1:MIMO
複数のアンテナを用いて同時に通信することにより、高速化する技術

さらに転送速度を上げるため、6Gでは複数の基地局が協調しながらMIMOを使って、1つの端末と通信する「分散MIMO」技術を使うことを想定しています。

高周波数帯における広い帯域を活用するため、時分割複信※2(TDD:Time Division Duplex)という複信方式が主流になると考えられています。上り、下りの通信を時分割するだけではなく、在圏するユーザーのトラフィック要求に応じて柔軟に上りと下りの送信タイミングを切り替えていくフルデュープレクスが研究されています。フルデュープレクスでは、広い周波数帯域を有効に活用し高速化が可能になります。

※2:TDD
使用する周波数帯域を時間軸方向に細かく分割し、交互に送信と受信を繰り返す仕組み

私は現在NTTドコモでテラヘルツ帯通信、ダイナミックTDD、分散MIMOといった研究をしています。また、国内外の通信、ハードウェアメーカーと共同でさまざまな技術検証なども行っています。

2030年と見込まれている6Gの実現を考えると、さまざまな技術のうち、実現可能な高い性能を持つ技術を選択しなければなりません。特に導入されるであろうテラヘルツ帯での技術検証は必須です。このため、我々の会社では、シミュレータを開発し、100GHz(0.1THz)での各種技術の有効性を検証しました(図表)。

図表 6G 無線アクセス技術を評価するためのシミュレータ

図表 6G 無線アクセス技術を評価するためのシミュレータ

100GHzの電波は、波長が3ミリメートル以下になり、ほとんどのものを通過できません。物に当たると反射しますが、その表面の素材や滑らかさなどに影響されやすくなります。場合によっては乱反射や吸収で急激に強度が落ちてしまいます。

また、光と同じく、物の裏側に回り込むこともありません。このため、基地局と端末は「見通し」範囲になければなりませんが、屋外には構造物や樹木、乗り物など、室内などには柱や機械などさまざまなものがあり、電波が届かないところができてしまいます。そこで電波を効率的に反射する「反射板」を使うことが考えられています。電波の反射を制御できるIRS(Intelligent Reflecting Surface)を設置することで効率的な基地局配置が可能になります。IRSでは、反射板の向きを変えることなく、反射方向を静的、動的に変えることができます。真正面から来た電波を斜め方向に反射するといったことが可能になります。

こうした技術を使うことで、多数の建築物がある都市内や複雑な構造を持つ屋内で電波が届かない「影」になる部分をカバーすることができます。

MIMOでは、スマートアンテナを使い、ビームの方向を切り替えていきながら、端末との通信状態が最も良くなる方向を探します。経路に反射板があれば、基地局から見通せない場所にある端末とも通信が可能になります。このとき、基地局は反射板の存在や位置を考慮する必要はなく、単に端末との通信状態が良くなる「方向」を探すだけですみます。

テラヘルツ帯では基地局とコアネットワーク側を無線で接続することも可能になり、アンテナが小型化でき、ドローンや気球などに基地局を搭載することが考えられます。

前述のシミュレータでは、工場のような広く、機器などが多数ある環境と、大規模モールのような多数の人がいて、複雑な構造物の中といった条件でシミュレーションを行いました。モールでは、固定の基地局に加え、IRSやドローンに搭載した基地局を入れ、6G通信機能を持つロボットや6G端末を持って人が移動、あるいは立ち止まっている状況を作り出しました。このシミュレーションで我々が研究している技術では、90%の端末が100Gbps以上を出せそうだということが確認できました。

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