衛星量子暗号通信の最前線 2030年代には民間利用も開始へ

目次

量子暗号通信への期待と基本的仕組み

量子コンピューターの開発競争が加速している。米国のビッグテックが開発を先導してきたが、近年は中国が国を挙げて巨額の予算を投じている。

量子力学の原理を計算に用いる量子コンピューターは、従来の古典的、すなわち非量子のコンピューターでは解決が不可能だった難問を短時間で解くことができ、社会を大きく変えることが期待されている。

だが、現在通用している暗号の解読が可能というのも、量子コンピューターの持つ能力の一面である。今日、インターネットやクレジットカード取引などで日常的に使われている、RSA暗号等の公開鍵暗号を量子コンピューターが破ってしまい、利用が不可能になるのは決して遠い未来の話ではない。

そうした近未来に備え、すでに実用化が始まっているのが量子暗号通信だ。量子暗号通信は「量子鍵配送(QKD)」という技術で暗号化と復号に使用する鍵を量子通信で配送し、一度使用した鍵を使い捨てる「ワンタイムパッド」と呼ばれる方法で暗号化と復号を行うという2つの部分で構成される(図表1)。

図表1 量子暗号通信の仕組み

図表1 量子暗号通信の仕組み

QKDは、光の最小単位である光子に共通鍵の情報を載せて受信者に向けて送信する。光子は外部から働きかけを行うとその状態が変化し痕跡が残る。また、QKDでは光子1個を1ビットに用いるので、光子による鍵共有時のエラー率を確認することで盗聴を検知することができる。

鍵情報の誤りの訂正や、盗聴者に漏れた情報を除去するプロセスを鍵蒸留処理といい、この処理のうえ、送信者と受信者は盗聴された可能性がある鍵は使用せず、安全な鍵のみを暗号通信に用いる。

QKDのこうした特徴が、原理的に盗聴が不可能な暗号通信を実現させる。

しかし、QKDには鍵の配送距離という物理的な制約がある。光ファイバーを用いた配送可能距離は、減衰の影響により100km~200km程度に留まるとされてきた。2021年には東芝がその距離を600kmまで伸ばしたが、国家間レベルでの実用性を考えると不十分だ。

そこで、衛星通信の出番だ。宇宙空間では光信号の減衰がほとんどない。衛星から光で地上局に鍵を送ることでこの制約を克服し、配送距離を大幅に伸ばすことが可能になる。

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