NHKエンタープライズがローカル5Gに挑む理由 無線カメラで映像演出革新

高精細映像をワイヤレスでリアルタイム伝送できる────。

これこそ、ローカル5Gで最も期待される利用シーンの1つだろう。

この特性を、コンサートやフェス、演劇、スポーツ観戦といったライブ・エンターテイメント業界の飛躍につなげようとする取り組みが始まっている。「カメラのケーブル」によって生じる様々な制約を取り除くことで映像演出を高度化し、合わせてオンライン配信公演のコスト問題を解消するのが狙いだ。2021年に東京渋谷区の「LINE CUBE SHIBUYA」で、ローカル5Gを活用したワイヤレス映像システムの実証(代表機関はstu。KDDI、渋谷未来デザイン、クニエが参加)を行ったNHKエンタープライズ執行役員 イノベーション戦略室長の福原哲哉氏は次のように語る。

NHKエンタープライズ 執行役員/イノベーション 戦略室長 福原哲哉氏

NHKエンタープライズ 執行役員/イノベーション 戦略室長 福原哲哉氏

「映像演出の幅を広げたい。いろいろなカメラワークがやりたくとも、ライブ配信の場合はすべてのカメラにケーブルがあることが大前提で、天井やクレーンに付けたい、あるいはステージ上を縦横無尽に動かしたいときに、ケーブルが常に制約になる。これがなくなれば、配線にかかる要員も時間も不要になり、『新しい映像をどう作るか』により多くの人と時間を使うことができる」

急拡大するライブ配信市場

ライブ・エンターテイメント業界において映像演出の高度化が求められる背景には、コロナ禍を経て高まったオンライン配信ニーズがある。

動員数の大幅減に見舞われた同業界の市場規模は、2019年の6295億円から2020年に1106億円まで縮小(ぴあ総研調べ)。9月に「上限5000人」制限が緩和された2021年も、3072億円に留まった。

この苦境を打開する光明となったのが、ライブイベントのオンライン配信だ。リモート集客を可能にしただけでなく、イベント参加の裾野も広がった。会場のキャパシティを超える集客が可能で、かつ遠方のイベントに参加しやすい利点もあり、2020年から本格的に立ち上がったオンラインライブ市場の規模は2021年に500億円超に急拡大。感染収束後も需要は継続すると見込まれている。

一方で課題もはっきりしている。ライブ配信ならではの付加価値をどう生み出すかだ。

イベントの映像を単純に配信しているだけでは、視聴者はすぐに飽きる。没入感を高めるとともに、配信ならではの映像体験を提供できなければ、この新市場の成長は鈍化する。

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