「Wi-Fi 7対応のアクセスポイント(AP)をリリースしてから、ものすごい勢いで売上が伸びている。大規模な受注が複数入っており、正直びっくりしている」
そう話すのは、シスコシステムズ 執行役員 ネットワーキング事業担当の高橋敦氏だ。
同社がWi-Fi 7対応APを国内で発売したのは2024年11月。性能も価格も高めのハイエンドモデルからスタートしたため、売れ行きが伸びるまでには時間がかかると予想していたが、よい意味で裏切られたという。国内第1号は製造業で、病院などでも大規模導入に向けた検討が進んでおり、あらゆる業種から引き合いがあるとのこと。この4月にはエントリーモデルの販売も開始しており、その引き合いも好調のようだ。
日本ヒューレット・パッカードも昨年からWi-Fi 7対応APを販売しているが、同社 Aruba事業統括本部(以下、HPE Aruba)技術統括本部 本部長の下野慶太氏も「大学のお客様が現在展開中」と話す。
Wi-Fi 7対応APも端末も市場に出始めた段階であり、普及価格帯の製品も出揃っていないため、導入の動きはまだ限定的だ。それでも、新帯域の6GHz帯が使えるWi-Fi 6Eも含めて、新規格への期待は高まっている。
企業ユーザーはWi-Fi 6Eや7に何を期待しているのか。「6以前」との最大の違いは、やはり6GHz帯の存在だ。2.4GHzや5GHz帯のように混雑することのない帯域で快適な通信が行えることはもちろん、これまでは有線LANに頼らざるを得なかった大容量通信や高信頼、低遅延通信を必要とするユースケースを無線化するケースが出てきている。
無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)技術・調査委員会 委員を務める鈴木俊太朗氏(ヤマハ)は、Wi-Fi 6E対応APを導入した映像制作会社の例を挙げる。
CMやミュージックビデオ等の制作を手掛ける同社では、映像データの容量が日々増加。従来は有線LANで伝送していたが、ヤマハ製のWi-Fi 6E対応APの導入後は、スタジオで撮影した映像データをWi-Fi経由で即座にNASへバックアップ保存できるようになった。大容量データの伝送がスムーズになり、業務効率化につながっているという。
鈴木氏は、「さらに、Wi-Fi 7のMLO(MultiLink Operation)を使ったり、320MHzの帯域幅が使えれば、有線よりも使い勝手よく大容量ファイルがやり取りできるようになる。こうしたお客様は、先行導入する価値が大きい」と語る。
低遅延あるいは遅延の安定化もユースケースの拡大をもたらす。6GHz帯を使用する端末はまだ少なく、干渉が起こりにくい。特定のエリア内で端末数や用途をコントロールできれば、低遅延かつゆらぎのない無線通信が可能だ。「医療や教育の分野では、遅延に関して非常にセンシティブなARやVRを活用しようとする取り組みが増えてきている」とHPE Arubaの下野氏は話す。
同社はWi-Fi Alliance、タイ国立大付属ラマティボディ病院と共同で、6GHz帯Wi-Fiを活用した医療アプリケーションを実証した。AR/VRを使って骨格、筋肉、神経、軟部組織構造など人体の没入型3Dビューを医師や医学生に提供するものだ。実証は6Eを使用したが、「7のほうがより向いている」(同氏)。
6GHz帯とAR/VRの組み合わせは3Dゲームなどコンシューマー向けで先行しているが、医療や教育、あるいは製造業の現場などでも利用が広がる可能性がある。