企業ネットワークに変化が求められている。
従来の企業ネットワークについて、ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ バイスプレジデントの池田武史氏はこう説明する。
「コロナ前の調査では、8割以上の企業がパブリッククラウドやSaaSへのアクセスの際、一度企業の本社/データセンター(DC)を経由させるべきだと考えており、こうしたアーキテクチャがベストプラクティスとして広まっていた」
しかし、オンプレミスの本社/DCに通信を集約するアーキテクチャはもはやベストプラクティスとは言えない。企業のクラウドシフトが進むにつれ、非効率なものとなってきた(図表1)。
図表1 レガシーなWANとVPN構成
ヴイエムウェア マーケティング本部 ポートフォリオマーケティングマネージャの林超逸氏は指摘する。「アプリケーションのパフォーマンスの低下、通信コストの増大、データ遅延の発生という問題が出てきている。クラウドシフトが進むに従い、オンプレミスのデータセンターにおけるネットワーク/セキュリティ機器のスケール不足や機能面で課題が出てきたからだ」
リモートワークが一般化していくなかで、ZoomやMicrosoft 365などのSaaS利用が広く深く浸透した。ZoomやMicrosoft 365などは、インターネット上にあるアプリケーションである。にもかかわらず、在宅勤務する従業員は、本社/DCを一度経由しなくてはならない。
とはいえ、業務用のアプリケーションやデータのすべてがクラウドに移行するわけではない。「ほとんどの企業は、今もオンプレミスに多くの資産が残っている」(日商エレクトロニクス プラットフォーム本部の坂口武生氏)
つまり、オンプレミス(プライベートクラウド)とSaaS、IaaS等の複数のパブリッククラウド、すなわちマルチクラウドを効率よく利用できるネットワークへの再設計を企業は迫られているのである。
MCNとは?そこで、マルチクラウドネットワーク(MCN)というカテゴリのソリューションが最近注目を集めている。これは、企業ネットワークと複数のクラウド接続を一元的に管理、制御するソフトウェアおよび、インフラソリューションの総称である(図表2)。「現状は、北米の一部ユーザー企業などが使い始めた先端的なソリューションだ」(池田氏)。ガートナーではMCNではなく、「クラウド・ネットワーキング・ソフトウェア」という名称で同市場を定義している。
図表2 MCNのカバー領域
米国のクラウド技術コミュニティであるFuturiomは、2021年のクラウド技術のトレンドを振り返る中で、ZTNAやSASEなどと一緒にMCNを重要トレンドのトップ10の1つに選んだ。