テラヘルツ波の第一人者、NICT寳迫氏に聞くワイヤレスの未来「Society 5.0へ無線フル活用」


――日本政府は目指すべき未来社会の姿として「Society 5.0」を提唱しています。その実現に向けては、5Gをはじめとする無線通信の役割がますます重要になりますが、今後さらにどう進化していくべきとお考えですか。

寳迫 無線通信と言ったとき、いろいろなカテゴリーの無線通信があります。近頃、特に話題なのは携帯電話関係ですが、「それだけではない」ときちんと認識したうえで取り組む必要があると思っています。

後ほど話すテラヘルツ波にも関わるのですが、使える周波数はだんだんと上限に近づきつつあります。ご存知のように電波法では3THzまでが「電波」と定義されています。さすがに3THzまでは使えないと思いますが、低い周波数から非常に高い周波数までを有効活用できる手段が整ってくるのが次の10年です。

電波はその周波数によって性質が異なっており、最適な利用の仕方も違っていますが、それぞれの周波数の特徴を生かした無線通信が技術的に可能になってきました。無線通信が本当にフル活用される時代がやってくる、という期待を持っています。

Society 5.0に向けてはもう1つ、ユーザーから見える部分だけではなく、バックボーンも含めたネットワーク全体で考えていくことも重要だと考えています。有線の光ファイバーもそうですし、近年は衛星コンステレーションやHAPS(High Altitude Platform Station:成層圏プラットフォーム)でバックボーンを構築するといった今までにない考え方も多数登場しています。こうした技術をどのようにハーモナイズさせ、全体の価値を高めていくのか――。そのためのビジョンが必要になっています。従来は、例えば「固定無線はこう」「移動無線はこう」と切り分けながら議論してきましたが、これからは無線システム全体としてのデザインが非常に重要になります。

――ネットワーク全体が高度に連携・協調しないと、未来の社会を支えられないということですか。

寳迫 そうです。その背景には、サイバー・フィジカル・システム(CPS)がどんどん浸透していくことがあります。

寳迫巌・NICT ワイヤレスネットワーク総合研究センター長

――CPSとは、サイバー空間とフィジカル空間を一体化し、高い付加価値を創造するためのシステムのことですね。Society 5.0もCPSの一種と言えます。

寳迫 5Gによって、IoT化は今後かなり促進されます。また、今回のパンデミックによって、すでに多くの活動がサイバー空間に移動しました。例えば、私がよく参加するのは国際会議ですが、資金力のある国際会議は凄いんですよ。リアルの国際会議のような空間がバーチャルで用意されていて、仮想会議室に入るとライブで講演を聞くことができます。

「働き方改革」などと言いながら、今までリモートワークが広がらなかったのは、バーチャルに対する心理的バリアが非常に大きかったからだと思います。しかし、そのバリアは取れました。新型コロナウイルスは、在宅勤務をはじめとする新しいライフスタイルが定着するきっかけになるでしょう。音楽のライブだったり、これから様々なものがバーチャルに移っていきます。直接会わなくても、いろいろなことを体験できる社会の到来です。

そして、こうした新しい社会を支えるにあたって、ネットワークが有線でいいかというと、できれば無線でつなぎたいという要求がもっと増えていくはずです。従来、「無線なんて」と言っていた工場などにも無線はどんどん入っていきます。

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