「業務に踏み込んだかたちの実装が進んできている」
日本企業の生成AI活用の現状について、日本マイクロソフトの執行役員常務でクラウド& AIソリューション事業本部長を務める岡嵜禎氏はそう述べた。AI戦略への理解と構築の度合いが進展し、“AI成熟度”を高めた企業の中には、非常に明確なAI戦略を推進するケースが見られるという。
そうしたAI活用企業のニーズは大きく2つに分かれる。「AIを使う」と「AIを創る」だ。開発や展開に手間をかけずに、SaaSで提供される生成AIソリューションを活用することで早期にメリットを得ようとするのが前者。一方、自社内にカスタム化したAIシステムを構築し、活用の深度を追求するアプローチも存在する。
マイクロソフトはそのいずれにも対応する各種のAIソリューションを用意している。「AIを使う」の中軸となるのが「Copilot for Microsoft 365」だ。そして、「AIを創る」に関しては「Microsoft Copilot Studio」「Azure OpenAI Service」を提供している。
Copilot for Microsoft 365は、OpenAIの大規模言語モデル(LLM)を使ったMicrosoft 365アプリケーションだ。文書の作成や共有、会話・会議内容を要約するといった様々なサポートを行い、ユーザーの生産性を高める。
これを活用する国内の先進事例として岡嵜氏が紹介したのが日本ビジネスシステムズ(JBS)だ。同社は2023年8月にMicrosoft 365 Copilot アーリーアクセスプログラム(EAP)に参加。定期的な勉強会の実施、社内のCopilot使用状況の分析などを経て、2024年3月にCopilot for Microsoft 365を全社展開した。
取締役専務執行役員 ビジネスグループ統括 デジタルセールス本部担当の後藤行正氏は、「議事録作成と契約書チェックの2業務に使っている」と説明。全社展開からまだ2週間ほどだが「様々な利用例が出てきている」状況だ。全社展開に踏み切った理由については「AI活用が当たり前になっていくことが我々の最終ゴールだ。習うより慣れろで、従業員に使っていただく環境を整えている」と話した。
議事録の作成に関しては、Copilotのデフォルト機能に加えて、精度を高めたり、従業員の使いやすさを向上させるためにプロンプティングを工夫しているという(下画像の右側参照)。生成された議事録をパワーポイントでそのまま使るようにするプロンプト等も開発しているという。
契約書チェックは法務部門での活用例だ。後藤氏によれば、従来は1件につき平均15分程度がかかっていたが、Copilot for Microsoft 365の導入後は平均5分に短縮された。
また、マーケティング部門のセミナー関連業務でも活用しており、文書作成やアンケート結果の要約・分類などに使った結果、1カ月で16時間の業務時間が削減できたという。JBSではCopilotの導入効果を、生産性や業務効率の分析ツールである「Viva Insights」を使って測定。下図表のような結果を得ている。後藤氏は「時間の削減もさることながら、誤字脱字の減少など精度が上がったこと、余った時間を価値創出のために使えるようになったことが大きい」とした。
JBSではこのほか、ローコードでCopilotの機能を拡張し、独自のAIアプリを作成できる「Copilot Studio」の活用も始めているという。