スマートフォンやIoTの普及により、さまざまな人やモノの“位置情報”を取得できるようになった。調査会社のリサーチステーションによると、位置情報分析の2022年の世界市場規模は、約3兆円に及ぶ。今後は年間平均成長率(CAGR)13.1%で成長し、2027年には約5兆円にまで達すると予測されている。
この位置情報で都市DXを推進する企業が存在する。三井物産とKDDIが共同設立した「GEOTRA(ジオトラ)」だ。「これまで位置情報は、マーケティングや広告などを中心に使われていたが、本質的には都市開発のような公共インフラに近い領域での活用が進んでいく」と、GEOTRA 代表取締役社長CEOの陣内寛大氏は語る。公共インフラへの投資に関する知見を持つ三井物産と、細かい粒度の位置情報データを持つKDDIが手を組み、「社会に大きなインパクトを与える」ことが共同設立の狙いだという。
同社は、“GEOTRAアクティビティデータ”と呼ばれる独自のデータを開発・提供している。従来の位置情報と比べ、細部にまで可視化されたデータになっているのが特徴だ。これにより、生活者1人ひとりが「何時何分にどこに移動したか」を把握することができる。さらに、移動手段や目的なども捉えることができるとのことだ。「1人ひとりの動きが分かるので、例えば大手町エリアで働く渋谷在住の30代の男性は、毎週金曜日の夜に30%の確率で新橋の居酒屋に行くといったデータも見えてくる」と陣内社長は解説する。
ただこれらの情報はパーソナルデータに該当するため、取り扱いが難しかった。また、個人を特定できないようにパーソナルデータを秘匿化すると、データ粒度が荒くなり、分析の自由度が下がるという問題点もあった。これらの課題を解決するのが、“合成データ”技術だ。合成データは、コンピューターのアルゴリズムによって生成される実際のデータに限りなく近い人工的なデータであるため、統計的な特性を保持しつつ、高いプライバシー性を確保できるという。
GEOTRAの“高粒度”人流データの概要
「我々のようなアプローチで位置情報を提供している会社は珍しく、独自性があるのではないか」と陣内社長は胸を張る。
GEOTRAアクティビティデータの活用は、大手企業を中心に進んでいる。その筆頭は、不動産業界だ。例えば、丸の内/大手町/有楽町地区の開発を手掛ける三菱地所は、同エリアの人の動きをGEOTRAアクティビティデータで分析し、今後のまちづくりに活かしていく考えだ。
八重洲/日本橋/京橋地区の開発などに着手する東京建物も、再開発に伴い、人の流れがどう変わったかを把握するために同データを活用している。また、コロナ拡大後の人流を把握するのに使っているデベロッパーも多いという。「コロナにより大規模の宴会がなくなり、数人規模の宴会が一般的になった。そうなると選ぶお店も変わってくる。こういった人々の行動パターンの変容を正確に理解することも、各社は重要だと捉えている」と陣内社長。