目指せスマートビル先進国 大林組とシスコが統合ネットワークガイド

入り口では非接触センサーによりハンズフリーで入館。デスクに着席後は照明や空調が自動で最適化され、気持ちよく1日の業務を始められる。トイレや飲食店は混雑状況が分かるから空いてる場所を利用できるし、業務中もスケジューラーと連携して自動で会議室が予約される。その裏ではロボットが人のいないエレベーターを利用しながら警備やテナントへの物流を支援している。

オフィスや商業ビル内の設備全体にIoT機器を設置・相互連携させ、このように利用者が快適に過ごせる場を実現するスマートビルの動きが盛んだ。「特に2021年に入ってからは、明らかに要望が増えている」と大林組 エンジニアリング本部 情報エンジニアリング部長の山口直之氏は明かす。

大林組 エンジニアリング本部 情報エンジニアリング部長 山口直之氏
大林組 エンジニアリング本部 情報エンジニアリング部長 山口直之氏

その一因には新型コロナウイルスの影響もある。コロナ禍でオフィスの在り方を再考するテナントが増え、ビルオーナーが付加価値を高めるために取り組むケースが増えている。「自動清掃ロボットや警備ロボット、顔認証による入退館システムなどが実証実験段階から実装段階へソリューションが普及してきたことも後押ししている」とシスコシステムズ カントリーデジタイゼーション推進本部 ビジネスディベロップメントマネージャの菊田邦秀氏は分析する。

シスコシステムズ カントリーデジタイゼーション推進本部 ビジネスディベロップメントマネージャ 菊田邦秀氏
シスコシステムズ カントリーデジタイゼーション推進本部 ビジネスディベロップメントマネージャ 菊田邦秀氏

ビルのネットワークは“バラバラ”ビル内のデバイスがIP化し、スマートビル需要が高まるにつれ、ネットワークの重要性も高まっている。「今やIPネットワークは、電気・ガス・水道に次ぐ『第四のユーティリティ』として、ビル設備になくてはならないインフラとなってきている」と菊田氏は説明する。

ビルをスマート化するには映像や温湿度、エネルギー消費量、位置情報などの大量のデータを一元的に収集し、分析するプラットフォームが必要になる。さらに、プラットフォームから各システムとの相互連携のためには統合ネットワークも必要だ。

ネットワークを統合できることのメリットは大きく4つある。1つは速度、セキュリティ、信頼性などのネットワーク品質の向上だ。それぞれのシステムごとにネットワークを整備する場合に比べて、1本化したネットワークに投資を集中させることで高クオリティのネットワークになる。2つめはシステム間のデータ共有がスムーズにいくこと。例えば顔認証や人流の解析用のシステムのために、監視カメラの映像を流用するといったことが可能になる。3つめはシステム追加が容易になること。このため最新のアプリケーションを導入しやすい。4つめはクラウドサービスの利用促進だ。外部と接続する経路を1本化することでセキュリティ対策も統合しやすく、多様なクラウドサービスの利用や遠隔からのビル管理が可能になる。

しかし、現状のビル内システムの多くは個別に構築(サイロ化)されている。「システムの数だけネットワークもサーバーも作られていることが多い(図表1)。従来のビル内システムは監視カメラやエレベーター、設備管理などのベンダーが個別に設計し、導入している。ベンダー毎でセキュリティ対策を講じるため、重大なセキュリティインシデントが発生する可能性がある。竣工後に新たなシステムを追加したくても、新規にネットワークやサーバーが必要になるため、非常にコストがかかり導入に踏み切れないケースが多い。そのため、竣工後からICTという観点ではビルの価値は落ち続けていく」と菊田氏は解説する(図表2)。

図表1 統合ネットワークのイメージ

図表1 統合ネットワークのイメージ

図表2 従来のスマートビルと統合ネットワークが存在するスマートビルのコスト比較

図表2 従来のスマートビルと統合ネットワークが存在するスマートビルのコスト比較

一度サイロ化されたビル内ネットワークを統合することは難しい。各システムの運用業者が異なる中、統合に向けた調整を行うのは困難だからだ。「既設ビルを統合ネットワークにリプレースしたという国内事例を私は聞いたことがない」と菊田氏は話す。

無料会員登録

無料会員登録をすると、本サイトのすべての記事を閲覧いただけます。
また、最新記事やイベント・セミナーの情報など、ビジネスに役立つ情報を掲載したメールマガジンをお届けいたします。