国や自治体が次の一手を決めるための意思決定を支援する――。
KDDIでビジネスIoT企画部長を務める原田圭悟氏は、今回の取り組みについてそう語った。auのスマートフォン、トヨタ自動車の一部車種に搭載されているDCM(データ通信モジュール)、そして応用地質が開発・提供する雨量計や水位計等のIoTセンサーから得られるデータを組み合わせて分析し、国や自治体が防災関連の情報を迅速かつ効率的に把握できるよう支援するのが目的だ。
(左から)KDDI ビジネスIoT企画部長の原田圭悟氏、
トヨタ自動車 コネクティッド統括部 データ活用企画グループ長の田村誠氏、
応用地質 代表取締役社長の成田賢氏
スマホの「位置情報ビグデータ」を活用
具体的には、次のようなデータを利用する。最大の特徴は「スマートフォンやクルマを動くセンサーとして活用する」(原田氏)点だ。
KDDIは、auのスマートフォンを利用するユーザーから同意を得た上で、年齢や性別等の属性情報や位置情報等を基に、日本国内の任意のエリアにおける人口動態の推定・予測をリアルタイムに行う「人口動態分析/予測」技術を開発。人口分布に加えて、移動者や滞在者の数、鉄道路線や走行道路ごとに移動者数といった情報を推定・予測するものだ。
これにより災害時における道路の状況や避難場所、大規模イベント時における交通機関の混在状況等の情報を提供することが可能になるという。下は災害発生時の活用について示したものだ。2016年4月に発生した熊本地震の人口動態推計(本震翌日)によると、複数ある避難所ごとの人口の多寡や属性分布が明らかになり、実際には空いている避難所も複数あった。こうした情報が得られれば、空いている避難所に誘導したり、例えばお年寄りや子供が多い避難所に適した物資を搬送するといったことができる可能性がある。
位置情報ビッグデータの活用例
ABS作動データから「危険箇所マップ」
一方、トヨタ自動車も2013年から、自社のクルマに搭載した各種センサーと通信モジュール(DCM)を使い、車両の位置情報や制動データ、外気温等の様々なデータを収集し、交通情報プローブとして提供する仕組みを構築している。
例えば、道路ごとの走行履歴から、災害時にも通行できるルートを割り出して表示する「通れた道マップ」は、2014年の山梨雪害時等に利用された。そのほか、アンチロックブレーキングシステム(ABS)が作動した箇所の位置情報を集めることで危険箇所(ヒヤリハット地点)を知らせるといった使い方もある。外気温も測れるため、温度計を配置していないエリアにおいてピンポイントで気温データを集めることも可能だ。
ビッグデータ交通情報の活用例(通れた道マップ)
応用地質の成田賢社長は、こうした交通プローブ情報の活用例として、2018年1月に東京都心で大雪が降った際の例を挙げた。ABS作動のデータを分析した結果、積雪が10cm、気温が氷点下となった段階でABS作動が顕著に増えるなど積雪によって変化する道路状況を把握。当然、ABS作動の場所も特定できるため「凍結防止剤を散布する範囲とタイミングを考える際に非常に有用なデータになる」という。雪害の他にも、道路冠水など様々な災害シーンに合わせた仮説を立てて検証を行う計画だ。
交通プローブ情報の活用例
なお、DCMは現在クラウンやレクサスといった高級車から搭載を進めているが、2020年までにはトヨタが販売する全車種に標準搭載する方針だ。
これらスマートフォンとトヨタ車が「動くIoTセンサー」として情報を収集することで「防災モニタリング機器のコストを最小限に抑えながら情報を収集する」(原田氏)。さらに、定置観測が必要な場所には応用地質の防災IoTセンサーを設置し、そこから得られる情報も含めて、KDDIが構築・運用する「国・自治体向け災害対策情報支援システム」にデータを集約して分析し、国・自治体に対して情報提供による支援を行う。
応用電子のIoTセンサー(右:雨量計、左:水位計)
なお、応用電子では現在、3GおよびLTEを使ってデータを送信するIoTセンサーを提供しているが、LPWAの採用も検討中という。
3社は今年度から実証実験を開始し、2019年の商用化を計画する。原田氏は「月額や年額で利用できるサービス」として仕立てる考えで、予算規模の小さな自治体でも活用しやすくサービスを目指すという。