SDVと自動運転が切り開くモビリティ革命 ICT業界に期待される役割は?

自動車を取り巻く環境が大きく変化している。地球温暖化の進行を受け、日本を含む各国が2050年のカーボンニュートラル実現に向けて取り組みを加速させているが、国土交通省によると、国内における2022年度の温室効果ガス(CO₂)排出量のうち、自動車関連が約15%を占める。

交通事故も依然として多発している。ピーク時と比較すれば減少傾向にあるものの、警察庁が実施した調査によれば、2022年の交通事故発生件数は約30万件にもおよぶ。地方では特に、バス運転手の高齢化・人手不足が深刻化。廃線に追い込まれたローカル線も少なくない。

こうした中、自動車そのものへの期待も変わりつつある。KPMGコンサルティング(以下、KPMG)が自動車業界の経営者に対して、顧客が車両購入をする際に重視すると思われる要素について質問したところ、「シームレスかつストレスフリーな体験」「インフォテインメント/パーソナライズ機能」等が上位に挙がった(図表1)。「自動車産業は、安全性や環境への配慮と同じレベルで、パーソナライズ化を重要な要素として捉えている」と同社 プリンシパルの轟木光氏は語る。

図表1 自動車購入時の重視点

図表1 自動車購入時の重視点

SDVで何が実現する?

こうした社会課題の解決やユーザーのニーズを満たすため、自動車メーカー各社が力を注ぐことの1つが、SDV(Software Defined Vehicle)だ。SDVに明確な定義はないが、一般的にはソフトウェアによって機能・性能が決まる自動車のことを指す。無線を通じてデータの送受信を行う「OTA(Over The Air)」により、車載ソフトウェアのアップデートが可能になる。つまり、自動車が「スマホ化」する可能性があるのだ。

このSDVに不可欠なのが、5Gなどの通信技術だ。「SDVでは、クラウド上のセントラルコンピューティングと車両をつないでソフトウェアのアップデートを行う。0.01秒以下の低遅延が求められるというわけではないが、従来の車両と比べて膨大なトラフィックが発生する。これを処理できる通信が必要」だと野村総合研究所(NRI)グローバル製造業コンサルティング部 自動車グループ グループマネージャーの濱野友輝氏は解説する。

野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部 自動車グループ グループマネージャー 濱野友輝氏

野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部 自動車グループ グループマネージャー 濱野友輝氏

SDVが普及すれば、ソフトウェアを通じて先進運転支援システム(ADAS)や自動運転機能を更新・強化したり、サスペンション等の制御をソフトウェア経由で行うことで走行時の安定性・快適性を高めることが可能になる。また、ソフトウェアを介してエンジンやモーター等を制御できれば、燃料や電力の消費量を抑えることができる(図表2)。

図表2 クルマに求められる価値

図表2 クルマに求められる価値

カーオーディオやディスプレイなど車載インフォテインメントシステムのソフトウェアをアップデートすることで、最新の音楽や映画などのストリーミングサービスを車内で楽しめたり、生成AIを活用した音声アシスタントに「音楽を流して」と問いかければ、時間帯や気候、ドライバーの気分に合わせた音楽が流れてくる時代が到来するかもしれない。

ただ、「車内でしか体験できないエンタメを作らないと、ユーザーはアミューズメント施設や自宅でエンタメを享受することを選ぶはずだ」とKPMGの轟木氏が指摘するように、車内というプライベート空間ならではの没入感を重視した体験が今後求められるだろう。

KPMG コンサルティングプリンシパル 轟木光氏

KPMG コンサルティングプリンシパル 轟木光氏
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