米国でネットワーク中立性のルール確立を進める民主党サイドと否定する共和党サイドの対立が先鋭化している。
ネットワーク中立性ルールとは、インターネットにおけるアプリケーション、サービスや接続する端末について、ISP、特にブロードバンドのISPが、特定のものについて流通できなくしたり、接続できなくしたりすることができないように規制する考え方だ。エンドユーザーやOTT事業者、端末メーカーがインターネットから排除されることがないように保護しようという観点から、消費者団体やOTT事業者、民主党サイドから支持されてきた。
このルール化に慎重ないし反対なのは、規制される側のISPだ。ルールの考え方自体には賛同する事業者もあるが、規制権限を連邦通信委員会(FCC)が一旦持つと、他の規制にも乗り出すのではないかという不信感もある。産業界の意向に敏感な共和党サイドがルール化への反対を強く牽引している。
オバマ民主党政権時代の第2期(2013-17)途中までは、両サイドの意見を斟酌した折衷案がFCCで模索されたが、試みは結果的にすべて頓挫した。そこで2015年、当時のFCCは、妥協を排し、民主党サイドに立った全面的なルールの導入に踏み切った(2015年オープンインターネット命令)。
しかし、トランプ共和党政権(2017-21)が成立すると、今度はこの命令の内容を一部を残き全面的に廃止する2017年インターネットフリーダム復活命令(RIF命令)をFCCは共和党側委員長のもとで採択し施行させた。
ところが、次のバイデン民主党政権(2021-)になると、オバマ時代の2015年命令の内容を復活させることが大統領令で打ち出される。
このようなオールオアナッシングの応酬は、10年近くもの間続いてきた。
法的には、ブロードバンドインターネット接続サービス(BIAS)を、通信法タイトル2の規制の対象となる「電気通信サービス」に分類するか、それとも規制対象とならないとされる「情報サービス」に分類するかの争いに帰着している。2015年までのFCCの妥協策は、「情報サービス」と分類したままでネットワーク中立性ルールを導入するというものだったが、裁判で敗訴するなどですべて失敗してしまったため、民主党側は「電気通信サービス」への分類の一択になっている。
この分類の決定権限は、2005年の最高裁判決(「ブランドX判決」)(後述)でFCCにあるとされたため、大統領がどちらの党派なのか、そして、大統領が指名して上院が承認するFCC委員の過半数を民主党がとるか共和党がとるかで、この分類が変更され、ネットワーク中立性ルールの存否も決まるというのが繰り返されてきた。
現在のバイデン政権下では、民主党側が進めた2015年命令の復活は、民主党サイドの新任委員の任命が上院でなかなか承認を得られなかったため難航したが、2024年オープンインターネット命令という形で、2024年4月になってようやく成立した。しかし、その命令も、裁判で執行差し止めとなり、7月の施行予定期日を過ぎ、現在まで施行できずにいる。その中、次の政権へのバトンタッチの時期が迫ってきている。
これまでのFCCの命令とその効力が争われた判決を総括すると図表1の通りとなる。まず今回の前篇では、2015年以来のFCCの動きを中心に振り返り、新しい2024年オープンインターネット命令の内容を紹介する。