NICT 大野理事長「日本に必要なのはスピード 技術で築く自律性と不可欠性」

情報通信研究機構(NICT) 理事長 大野英男氏

情報通信研究機構(NICT) 理事長 大野英男氏

――今年4月に理事長へ就任されました。NICTは情報通信分野で日本唯一の公的研究機関ですが、どのような思いで、その舵取りを引き受けましたか。

大野 情報通信基盤の位置付けは大きく変わり、今や国の競争力と安全保障を左右する時代になりました。その研究開発を推進する非常に重要なミッションを担わなければならないという思いで引き受けました。

かつて情報通信システムは安定して動き、そこで使う機器も安く高性能であればよいと考えられていました。もちろん、それは今後も基本ではありますが、さらに安全保障や競争力の観点を念頭に置いた研究開発が必要です。鍵になるのは、「自律性」と「不可欠性」の2つです。国の自律性も不可欠性も、大きく技術の研究開発にかかっており、その最前線を担うのがNICTだと考えています。

――最近、日本の現状を「下りのエスカレーターに乗っている」と表現されています。そこから抜け出すうえでは何が重要でしょうか。

大野 一言で言えば、スピードです。私は、失われた30年の理由は、スピードが足りなかったからだと考えてきました。特に生成AIの登場以降は、1~2週間前と現在で状況が違うほどのスピードで世の中が進んでいます。意思決定の速さ「アジリティ」が今後さらに重要になります。

支える技術を自ら生み出す

――就任と同時に、新たな5カ年計画「第6期中長期計画」が始まりました。AI・コミュニケーション、Beyond 5G、量子情報通信、サイバーセキュリティの4つを戦略領域に設定しています。

大野 4つとも、我々だけで進めるものではありません。企業や大学と横断的に連携しながら、アジリティを発揮して進めます。

1つめのAI・コミュニケーションでは、過去20年余りにわたって収集した700億ページ以上の日本語Webデータから40TB以上の日本語学習データを精錬し、民間企業等に提供しています。NICT自体も日本企業と連携するなどして生成AIを開発し、社会に提供しつつあります。大きな価値は、生成AIの学習に使える形に整った大規模な日本語のデータがあることです。日本語のデータを分析すれば、日本の社会がどんな課題を抱え、何を重要と考えているかが見えてきます。それを海外の生成AIに委ねず、日本でできるということが極めて重要です。

2つめのBeyond 5Gでは、光ファイバーのマルチコア化や衛星光通信などの研究開発をリードします。マルチコアファイバーは日本が研究の中心的な役割を担っていますが、その価値がまだ十分に認識されていません。背景には、ハイパースケーラーがデータセンターに投じる年間数十兆円規模の投資と比べ、市場規模が何桁も小さいことがあります。しかし、海底・地上に光ファイバーを張り巡らさなければ、データセンター自体が活きてきません。つまり、サプライチェーンの根幹です。衛星と地上との光通信を1994年に世界で初めて実現したのも、NICTでした。今後は衛星間通信などにも民間と協力して取り組んでいきます。日本として低軌道コンステレーションを構築していくためにも、基盤技術を積み上げなければなりません。

SpaceXはもちろん非常に重要な存在で、NICT自身も使っていく必要があります。ただ、特定の民間企業だけに頼り、「この国への提供は止める」といった判断を委ねるしか選択肢がない状態は、国にとって非常にまずい。それを支える技術を、自分たちできちんと開発していく必要があります。

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