通信インフラの脆弱性は、安全保障上の懸念として強く意識されている。その中核を担う1つが衛星通信だ。地上インフラに依存せず、陸・海・空を問わず通信を確保できる点は、有事における指揮・統制や情報共有の観点から大きな意味を持つ。
実際、国際海底ケーブルの大規模切断を経験した台湾では、静止軌道(GEO)に加えて低軌道(LEO)など複数の軌道を組み合わせた衛星通信体制を整備している。また、通信だけではなく、測位や時刻同期においても宇宙インフラは重要だ。
こうした流れの中で、国内最大の衛星通信事業者であるスカパーJSATは、防衛・安全保障分野への関与を明確に打ち出している。同社は2025年1月に組織改編し、宇宙安全保障事業本部を新設した(図表1)。民間企業向けの事業と切り分けることで、防衛・安全保障分野への取り組みを本格化させる狙いだ。
図表1 スカパーJSATの防衛・安全保障分野への取り組み

同本部では、衛星通信回線の提供に加え、地球観測データの提供や量子暗号鍵配送といった非通信分野のサービスも一体的に手がける体制を整えた。「防衛省・自衛隊が宇宙空間を活用した能力構築を進める中で、通信以外の分野も含めて統合的にニーズを把握し、貢献していくべきという想いがあった」と、同本部の野々山将之氏は設立の背景を明かす。

通信分野では、同社は従来から官庁向けに衛星通信回線を提供してきた。自社で保有する17機の静止軌道通信衛星(他社との共同保有を含む)を基盤に、陸・海・空を問わず広域をカバーする通信サービスを展開している。近年はStarlinkの販売代理店やAmazon Leo(旧Project Kuiper)との戦略的パートナーシップといった低軌道衛星システムとの連携も進め、利用目的や運用条件に応じて通信手段を組み合わせる形で、回線をワンストップで提供している。
安全保障インフラとして衛星通信を捉えた場合、重要になるのが特定の軌道やシステムに依存しない構成だ。スカパーJSATは、静止軌道衛星を自社で保有・運用しつつ、低軌道衛星を含む複数のシステムを組み合わせるマルチオービット構成を前提にサービス設計を行っている。有事において通信を継続するためには、こうした冗長性を持った構成が不可欠となる。
同社が担う役割は回線提供にとどまらない。防衛省が保有する通信衛星「きらめき」については、PFI(民間資金等活用事業)を通じて調達から運用までを担っている。安全保障分野では、通信性能に加え、誰が管理し、どのように統制するかが重要だ。日本企業が主体となって通信帯域を確保し、政府の関与の下で運用・管理する体制を整えている点が評価されているという。
非通信分野で強化しているのが、地球観測および画像データの提供だ。事象が発生した地点から離れた場所で作戦を展開する「スタンド・オフ防衛」において、宇宙空間からの観測情報は重要な役割を果たす。特に即応性が求められる場面では、低軌道衛星を多数配備し、短時間で撮影・取得できる体制が求められる。
防衛省はこうした観測能力を「オールジャパン」体制で構築する方針を掲げており、2025年12月にはスカパーJSATや三菱電機、三井物産など7社からなるコンソーシアムが「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」を落札した。今後は、この枠組みの下で低軌道衛星コンステレーションを整備し、必要な観測データを迅速に取得できる体制を構築する。また将来的には、低軌道で取得したデータを静止軌道に中継・集約するデータリンクの仕組みの検討も進めており、衛星通信と観測を組み合わせた運用の高度化を目指している。